2022年11月09日

金融所得課税:財務省「年間所得が数億円超の富裕層への増税検討」だが…

【金融所得課税10%アップで約3兆円の税収を得ることができる】


●日本の所得税制は累進性が途中で崩れ、富裕層が有利に


昨日(118日)の日経新聞によると、財務省は年間所得が数億円超の富裕層への増税の検討に入ったと報じています(注1)。これは例の「1億円の壁」と言われている、所得が1億円を超えると税負担率が下がってしまうという(累進課税であるべき)所得税の「不公平・不公正性」を是正しようという狙いがあります。


実際、「財務省が10月上旬の政府税制調査会(首相の諮問機関)で示したデータによると、所得税と社会保険料の負担率は所得5千万超〜1億円の層で28.7%と最も高い。所得5億超〜10億円は21.5%50億超〜100億円では17.2%となり、300万〜400万円の17.9%より低くなる」(同日経新聞 図参照)となっています。


なぜこうした事態になっているかと言いますと、次の通りです。勤労者などの「給与所得」は所得が増えるほど税率が上がっていく「累進課税」で、最高税率は4,000万円以上の45%(+地方税10%)ですが、他方、株式売却益や配当などの「金融所得」は一律15%(+地方税5%)という「分離課税」で、従って4,000万円以上の所得があっても「金融所得」が多いほど税率は下がってきます。その分岐点が1億円所得なのです。


●政府・与党は課税強化に向かうか?


金融所得課税の不公平・公正性については以前から指摘されており、とくに2019年消費税の10%へのアップ時には財務省も相当前向きでしたが見送られてきたという経過があります。また、岸田首相が誕生した当初「金融所得税の強化」を訴えていましたが、たちまち前言を翻す事態となっています。こうした中での今回の財務省の動きですが、いろいろ制約がありそうです。


そもそも自民党の税制調査会の動きがどうなのか、実施する気があるのか、です。なにしろ「貯蓄から投資へ」というのが岸田式「新しい資本主義」のキャッチフレーズですので(ぜんぜん新しくないと思いますが)。


ともあれ、記事では、@政府が進める創業支援に逆行しないこと、A所得5億円以下の層は土地・建物の売却益が多く固定資産税がかかることを考慮すること、B給与所得が大半の人はすでに高い税を払っているので調整すべきこと、C株売却益への課税強化は幅広い層に影響が及ぶので線引き等を検討、等々課題点が挙げられています。


●様々な条件が付き税収は縮小か?金融取引税の新設なども必要


では金融所得税を10%アップしたらどのくらいの増税になるかと言いますと、約3兆円になります(2019年の税収で 注2)。同税を分離課税ではなく総合課税としますと35%アップとなりますので税収は10兆円を超えるのではないでしょうか。10兆円超となりますと、消費税の4%分ほどになりますので、税収ボリュームは十分と言えましょう。


しかし、総合課税化は激変となりますので、当面は10%程度のアップがよいのかもしれません。それでも政府・与党が課税強化に向かうとしても、上記のようにいろいろ条件が付いて、思ったほどの税収が上がらない恐れもあります。ですから、1000兆円を優に超える財政赤字を解消していくためには、所得税や法人税の累進課税の強化や金融取引税の新設などが必要となってきます。


驚いたのは、今回の22年度第二次補正予算において一晩で4兆円も積み上げ、しかも29兆円中22兆円を赤字国債で賄うという政府の行いです。英国では予算の裏付けのない安易な減税政策が財政の悪化を招くとして市場からの反乱にあい、頓挫しましたが、日本の赤字垂れ流しは英国の比ではありませんので、近い将来が心配です。


諸富徹:京都大学大学院経済学研究科 教授の「ひとこと解説」

図に示されているように、100億円の所得を得る人の所得税+社会保険料の負担率が、400万円の所得を得る人の負担率より低いという状況は、いくらなんでも正当化し難い。本来、累進所得税の目的は所得を再分配することだ。これでは税制が、格差の拡大を助長しかねない。所得税のこうした問題を是正するため、新興企業支援を施したうえで、一定の所得(5億円とか10億円)以上に対象を絞った課税強化なら、望ましいといえよう。逆進的な消費税は、すでに数次にわたって税率が引き上げられてきた。今後のさらなる引き上げも議論しなければならない中、再分配を担うはずの所得税の機能不全がこれ以上、放置されていてよいはずがない。【了】

1億円の壁.JPG
posted by resultsjp at 19:44| Comment(1) | 国際連帯税の推進