2023年03月20日

薬剤耐性菌への国際臨床試験開始:現場の生の声を大切に

今月から、薬剤耐性菌による感染症にかかった赤ちゃんへの国際臨床試験が始まりました。

本日の朝日新聞1〜3面参照:

試験は、WHOなどが設立した耐性菌対策に取り組む国際非営利組織「The Global Antibiotic Research & Development Partnership(GARDP)」が中心となり、日本からは塩野義製薬と国立国際医療研究センター(NCGM)が参加しています。南アフリカとケニアで開始し、適切な投与方法が見極められた後、約10か国に拡大される予定です。

薬剤耐性菌とは、簡単に言うと薬が効かない菌のことです。もともと細菌が原因で引き起こされる病気に有効な抗菌薬が開発され、それにより、様々な感染症の治療が可能となりました。一方、1980年以降、従来の抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」を持つ細菌が世界中で増えてきました。感染症の予防や治療が困難になるケースが増えており、今後も抗菌薬の効かない感染症が増加することが予測されます。
健康な人なら免疫で抑えられることも多いそうですが、抵抗力の弱い子どもやお年寄り、持病がある人などの間では重症化し、多臓器不全などを引き起こす敗血症に至ることがあります。さらに、多くの抗菌薬が効かなくなった「多剤耐性菌」を獲得してしまうと、対応できる薬が限られ治療が困難になります。医療体制が整っていない国ではより対処が難しくなります。
GARDPの推計では、世界で年間約21万人の新生児が耐性菌による感染症で命を落としているとあるのにもかかわらず、赤ちゃんに使えるとされる抗菌薬は、1割程度しかないそうです。
日本でも他人ごとではありません。新型コロナウイルス禍での入国制限により、海外からの入国者は大幅に減り、一時的に国内の耐性菌感染症の発生は減りました。しかし、これから入国制限が緩和されていく過程において、海外由来の毒性の強い耐性菌が流入することが危惧されています。
NCGMの国際感染症センターのセンター長である大曲貴夫先生は、感染症に対して数多くの経験や技術を持つ日本が、薬を必要としている国において、治験に貢献することは意味があるとし、現地での対策がひいては日本の子どもを守ることにつながるというコメントされてます。

大曲先生には、予てよりご指導ご鞭撻をいただいており、先日開催されたGGG+フォーラムのパンデミックセッションの第5部で、お話をしていただきました。

GGG+フォーラムの様子はこちらからご覧いただけます:

フォーラムの中で大曲先生は、ご自身の現場での生の経験をもとに、現在の感染症に対するヘルスシステムや医療・介護の体制には課題があり、今のUHCに向けた議論には限界があると指摘。ご自身が専門とされる感染症分野の視点から、研究開発、治験など、さまざまな解決策を提案してくださいました。

お話の中で印象的だったのは「先進国が、ワクチンや診断薬、治療薬を、全力を挙げて開発しているが、現実には先進国であってもそれが届かない人々が存在しており、ハイレベルな議論と現場の患者さんの実情の間で分断が生まれている」という内容でした。皮肉にも、コロナウイルスの人口100万人当たりの死亡者数はヨーロッパやG7の国々が突出して多いのだそうです。

私個人は、感染症分野について精通している者ではありませんが、日本で研究や開発が進んでも、それに全くアクセスできず取りこぼされていく人々が国内に一定数いるという現状を、政策立案者や決定者、そして資金を動かす者がどれだけ目を向けることができるかが、いかに大切であるかを感じました。これは、医療だけでなく、栄養や衛生など、あらゆる分野に対しても同じことがいえると思います。
あらゆる立場の人々が具体的に思い浮かべながらの対策が進むよう、ハイレベルな会合で一部の人間によって進められる議論と現場の生の声との間に生じるギャップに鋭く目を向けられるようになりたいと強く思いました。
日本リザルツとしても、今後もGGG+フォーラムのように、あらゆるステークホルダーを巻き込んで、現場の声が皆さんに共有される会を続けていきたいです。


(おすぎ)
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速報!岸田総理とインドのモディ首相が会談

岸田総理大臣がインドを訪問中です。

つい先ほど、インドのモディ首相と会談し、5月のG7広島サミットにモディ首相を招待し、首相もその場で出席の意向を示したそうです。この他、ウクライナ情勢や中国の軍拡を踏まえ、法の支配に基づく国際秩序の堅持に連携して対応することを確認したようです。


報道はこちらを参照:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA176NR0X10C23A3000000/


なぜ、この時期に岸田総理自らがインドを訪問したのでしょうか。今月はじめ、G20外相会合が行われ、国会審議のため林芳正外相が欠席したことが報道で取り上げられていました。ただ、理由はそれだけではないようです。


インドは、グローバルサウスと呼ばれる新興国や途上国の代表格とされており、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、ロシアに加え中国の影響力を考慮し、中立的な立場をとる国が多いのが現状です。

今年の外交白書にははじめて「グローバルサウス」に関する文言が入れ込まれるなど、影響力は年々増しています。

その時のブログはこちらを参照:

http://resultsjp.sblo.jp/article/190233491.html


そこで、G7議長国として、中国やロシアを念頭に、法の支配に基づく国際秩序の堅持やグローバルサウスへの関与を強化するために、G20議長国のインドと連携を深めるために訪印したようです。


これはインディアン・エクスプレス紙への寄稿を見るとよくわかります。

寄稿内では「国際社会は今、歴史的転換期にあります。食料危機や肥料価格の高騰を含め、その影響はインド太平洋地域にも及んでいます。食料安全保障、気候・エネルギー、透明で公正な開発金融等の国際社会が直面する様々な課題に効果的に対応していくためには、G7とG20(金融・世界経済に関する首脳会合)との連携が一層重要です。G7、G20がそれぞれどのような役割を果たせば喫緊の課題を乗り越えることができるのか、本年それぞれの議長を務める者同士、モディ首相と腹を割って議論したいと思います」と、今回の訪印の目的をクリアに述べています。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/discourse/20230320contribution.html



岸田総理は渡航前の記者会見で「インドで自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の新プランについて講演をしてきたいと思っています。歴史的な転換期において、FOIPの果たす役割について、私の考えを明らかにしてきたいと思っています」と述べ、この件について新たな行動計画を発表する方針を明らかにしています。


岸田総理の会見(首相官邸):

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0319kaiken.html




時を同じくして、林芳正外相はソロモン諸島やクック諸島などを訪問し、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現に向け、太平洋島嶼国との間でも透明性・包摂性のある協力を幅広く進め、連携を強化することを確認しています。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/sb/page4_005817.html



日本リザルツが予てより注視している開発協力大綱の改定などにも影響がありそうですので、詳しい渡航の様子は首相官邸や外務省のHPが更新され次第、お伝えします。

(ぽ)

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科学の力で食事をおいしくする:「うま味」発見秘話

2023311日付の朝日新聞「はじまりを歩く」に「うま味」を発見した池田菊苗のことが紹介されていました。


「うま味」を発見したのは、東京帝国大学理科大学(現東京大学理学部)の池田菊苗教授です。池田教授は、肉や魚を食べたときに「うまい」と感じる味が、昆布やかつお節のだしの味にも共通していることに気付きました。そして、1907年に昆布から、「うまい」を感じさせるグルタミン酸を抽出し、その味を「うま味」と名付けました。1908年、グルタミン酸にナトリウムを加え、「味の素(グルタミン酸ナトリウム)」を完成させました。現在は、グルタミン酸だけではなく、かつお節に含まれるイノシン酸や、干しシイタケに含まれるグアニル酸も「うま味」であることが分かっています。

2000年には、アメリカの研究者が、舌に「うま味」に反応する受容体があることを発見しました。また、胃の中にも受容体が発見されました。グルタミン酸が入り込むと消化が促進されるため、食欲不振解消への活用も期待されています。科学の力は、理論的においしい食事や健康的な食事を作り出すことに貢献します。日本食は、世界的に繊細な味であることが有名です。「うま味」について、さらに解明が進むと、注目を浴びている昆虫食も含め、様々な代替タンパク質を美味しく調理することにも活かせるかもしれません。

しかし、一番大事なことは、作り手の愛情とも聞きます。食事に限らず、誰かのためという気持ちを忘れないでいたいです。日本リザルツもそうした視点を忘れないで、栄養改善に向けた取り組みを進めていきたいです。


くーぱー


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スリランカ経済危機:政府の汚職対策が急務

本日の日経新聞の経済教室「私見卓見」に、スリランカにおける経済危機に関する寄稿が掲載されています。

スリランカでは、慢性的な貿易赤字と、コロナパンデミックが原因となり、昨年5月にデフォルト(債務不履行)が宣告されました。


報道はこちらを参照:

https://jp.reuters.com/article/sri-lanka-crisis-idJPKCN2N40NE

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68605510Z10C23A2NN1000/


今回の寄稿は、政府の「汚職」に焦点をあてています。著者のスリランカのシンクタンク、ベリテリサーチのニシャン・デメル代表は、官僚の資産申告の透明性を高め、政府の内実の伴わない汚職対策を「社会の意見に耳を傾けず、国民生活を一段と悪化させている」ことを指摘しています。その上で、具体的な対策として、政府自身で汚職防止をすることが難しいのであれば、汚職対策について、機関を独立させることを提案しています。また、他の新興国や途上国でも債務不安の課題は広がっているとして、本年5月に広島で開催されるG7サミットで、衝撃に耐えうる世界経済を作るための議論をしてほしいと要望しています。

日本政府は、スリランカの経済危機を受け、今年の2月に武井俊輔外務副大臣が同国を訪問。また、同月22日には、同国への無償資金協力として50億円相当が保健医療分野の人道支援に供与されることになりました。


訪問の様子はこちらを参照:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sw/lk/page1_001502.html

無償資金協力に関して(在スリランカ日本国大使館サイト):

https://www.lk.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/11_000001_00034.html


実際、昨年8月の国連の推計では、人道支援を必要とする人が570万人にも及んでおり、経済危機が人道危機を招く事態となっています。日本においても、ウクライナ情勢を受け、円高や物価高などが生じ、国民も大きな影響を被っています。その観点からも、スリランカで起きた経済危機は決して対岸の火事ではありません。

今回の無償資金協力では、在スリランカ日本大使がスリランカの財務高官と書簡を交わしたようです。ちなみに、在スリランカ日本国大使館の甲木浩太郎公使は、外務省の地球規模課題総括課長を務められていた頃、日本リザルツが開催に携わった国際連帯税シンポジウムなどをはじめとする国際連帯税関連の会合に度々お越しいただきました。


その時の様子はこちらからご覧いただけます。

サンキューセミナー(国際連帯税):

http://resultsjp.sblo.jp/article/184782186.html

国際連帯税創設を求める議員連盟総会:

http://resultsjp.sblo.jp/article/185101900.html

国際連帯税シンポジウムの様子:

http://resultsjp.sblo.jp/article/186344712.html


白須理事長とも親交が深く、今回のスリランカ経済危機にあたって、日本の顔として、人道支援にご尽力されている姿に非常に感銘を受けております。

そのっち

posted by resultsjp at 12:02| Comment(1) | 情報