2024年04月22日

グローバル課税の議論が本格的に始動>国際課税の第3の柱としての世界最低富裕税など

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今月17日からワシントンでIMF・世銀春季総会やG20財務相・中央銀行総裁会合が相次いで開催されましたが、グローバル課税(Global Taxation)を巡って重要な会合がこれまた相次いで行われました。ひとつは、ブラジル・フランス・ケニアの各財務大臣とIMF専務理事がスピーカーとなって開催された“G-20 Event: New Challenges in International Taxation”(注1)、もうひとつは、ケニア、バルバドス、フランスを共同議長国とする“The Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action”の第1回会合です。

当然両方の会合は別々に行われたものですが、実はかなり連携が取れていたと思われます。というのは、前者の会合の司会者をローレンス・トゥビアナ氏(欧州気候財団のCEO)が務めたのですが、実は彼女は後者のタスクフォースの共同事務局長なのです。


以上の取り組みに関して、日本のメディアはほとんど報道していませんので、今回はまず New Challenges の方をお知らせします。


「世界最低富裕税は世界のマクロ経済問題の中核をなす」(ブラジル財務大臣)


今年のG20議長国はブラジルですが、主要テーマとして格差是正や貧困・気候変動を挙げ、そのためのキーコンセプトとして超富裕層に対する「世界最低富裕税」の導入を提案しています。


アダジ大臣は、「世界最低富裕税など国際課税は単に進歩的な経済学者のお気に入りのテーマではありません。世界のマクロ経済問題の中核をなす重要な関心事なのです」と会合の冒頭で述べ、「…世界的に格差は拡大しており、持続可能な開発目標はますます遠ざかっています。ブラジルがG20議長国を務めている間、私は社会的および環境的基準に基づいた新たなグローバリゼーションを提唱してきました」 (注2)と述べました。


ところが、実はこのブラジル提案に賛同しているのはフランスとスペインだけで(後者はG20メンバーではない)、必ずしも広がりを見せていません。これに対し、ブラジル側も織り込み済みで、「国際協力がなければ、各国の行動には限界があります。協力がなければ、トップにいる人たちは私たちの税制を逃れ続けるでしょう」と大臣は述べています。


国際課税アジェンダの第3の柱としての「世界最低富裕税」


では、この富裕税をどう世界的な協力のもとに実現できるのでしょうか? 結論として、OECD/G20が決めた「BEPS(税源浸食と利益移転)の包摂的枠組み」である二本の柱にプラスして、富裕税を3本目の柱として据えて、議論していくと考えているようです。この点、フランスのル・メール経済財務大臣も同様の考えを取っています。


ちなみに、第一の柱はいわゆるデジタル課税で、多国籍企業に対する課税権をそのビジネスを実施している市場国に配分するもの、第二の柱はいわゆるグローバル・ミニマム課税で、多国籍企業の最低法人税率を決めるもの(当面15%)、です。前者については、条約として2025年批准・実施をめざしています。後者については、今月から日本でも導入されています。いずれにせよ140か国がこれに賛同しており、富裕税もこうした国際協力で導入したいということです。


もとより世界的な富裕税の導入は相当困難であると思います。ル・メール大臣は2027年を目指すとしています。ともあれ、富裕税導入はこれまでは一部学識者やNGOの要求でしたが、G20レベルで公に論議となることはかつてないことであり、進展を期待するものです。


ミニマム富裕税の税収:世界2756人で2500億ドル、日本445180億円か?


さて、この世界最低富裕税の対象者と税収を見てみましょう。これはパリ経済学院のガブリエル・ズックマン教授が参加した調査機関「EUタックス・オブザーバトリー」が行っていて、「10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ富裕層(ビリオネア)の保有資産の2%課税」というものです。世界には2756人のビリオネアがいるので(東アジア838人、北米835人)、2500億ドルの税収となると試算しています(注3)。


日本はとなると、フォーブス・ジャパンの「日本長者番付 2023 トップ50」によりますと、1500億円以上のビリオネアは44人で、資産総額258990億円となり(注4)、従って税収は5180億円となります。


ところで、フォーブス・ジャパンの国別ビリオネアを見ますと、東アジアでは中国で495人、香港66人、台湾52人、韓国41人となっています。これに日本の44人を加えても計698人ですので、上記「EU…オブザーバトリー」の838人とは若干差があるようです(シンガポールのビリオネアは推定44人)。それにしても東アジアの大富豪は中国=華僑系が圧倒的です。これらの人士に果たして「ノーブレス‐オブリージュ(社会的に地位の高いものはそれに応じて社会に貢献しなければならない)」の精神は宿るでしょうか?


(注1)

G-20 Event: New Challenges in International Taxation

https://www.imfconnect.org/content/imf/en/annual-meetings/calendar/open/2024/04/17/184058.html

(注2

Taxation is at the heart of the global macroeconomic issue,” says Brasil’s Minister of Finance

https://www.g20.org/en/news/taxation-is-at-the-heart-of-the-global-macroeconomic-issue-says-brasils-minister-of-finance

(注3)

G20、富裕層への最低課税案が浮上 ブラジルや仏が支持

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN28EC90Y4A220C2000000/

(注4)

日本長者番付 2023 トップ50

https://forbesjapan.com/feat/japanrich/


写真は、クリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事のXより。登壇者は、左からトゥビアナ氏、ゲオルギエバ氏、フェルナンド・アダジ伯財務相、ブルーノ・ル・メール仏経済財務相。ケニアのヌジュグナ・ヌドゥング財務・計画相はまだ到着していない。

(報告:田中徹二/グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)

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2024年04月21日

G7、G20財務大臣・中央銀行総裁会合の動き

ワシントンではG7G20の財務相・中央銀行総裁会合が開かれていました。

日本への関心は為替対応が中心で、鈴木大臣は会議後の会見で、円安ドル高が進むなか、あわせて開かれた日本、アメリカ、韓国の3か国やG7の財務相の会合で為替市場の動向について緊密に意思疎通ができたと成果を述べました。


会議の様子はこちらのNHKの報道を参照:

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240419/k10014426491000.html


すでにG7については共同ステートメントが出ていましたが、この中ではガザ地区侵攻に加え、直近、深刻な情勢となっているイランとイスラエルの問題について、G7各国が連携して取り組む旨が確認されました。

また、G7以降、議論が進められているサージファイナンスについてですが、「財務・保健の連携強化及び PPR ファイナンスに関する G7 共通理解に基づき、強固な財務・保健の連携の重要性を再確認する」という文言が盛りこまれ、 ブラジルを議長とするG20 財務・保健合同タスクフォースの取組を推進することが確認されました。


またパンデミック条約(WHOCA)や国際保健規則(IHR)の修正については「更なる分断を回避することの必要性を強調する」と言及されました。


第2回 G7 財務大臣・中央銀行総裁会議共同声明(仮訳:財務省サイトより)

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/20240417.pdf


来月のG7首脳会合に向けて、こちらもどのような動きがあるのか慎重に見ていく必要がありそうです。

(ぽ)

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UHCナレッジハブについて正式発表!

418日から424日に世界銀行の春季会合が行われています。


世界銀行の春季会合において、鈴木財務大臣から「『UHCナレッジハブ』を2025年に日本に設立すること」が表明されました。武見厚労大臣の19日の閣議後の会見でも話があり、「UHCナレッジハブは、UHCに係る知見の共有や財務・保健当局の人材育成を支援する世界的な拠点であり、厚生労働省としては、引き続き財務省、WHO及び世界銀行と連携し、日本の高齢化における取組や経験も活かしながら、国際的に先進的な拠点となるようその準備を進めてまいります」と話していました。 

また、GFFに関しても1,000万ドルを追加拠出する旨を発表しました。


武見厚労大臣の会見はこちらからご覧いただけます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00689.html

鈴木財務大臣のステートメント全文:

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/imf/dc/20240419_2.html


また、日本リザルツが予てより力を入れているパレスチナ難民支援についても興味深い発言がありました。


世界銀行専務理事であるアナ・ビアルディ氏はガザ復興に12兆円必要だと共同通信のインタビューで語っています。

https://www.nishinippon.co.jp/item/o/1201311/#google_vignette


今後、どのような議論の進捗があるか期待したいですね。

 (ぽ)

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2024年04月20日

G7外相会合で中東情勢が議論

上川外務大臣がG7外相会合出席のため、イタリアを訪問しています。

外務省の取りまとめはこちらを参照:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pc/pageit_000001_00525.html


イランが在シリアの大使館攻撃への報復としてイスラエルを直接攻撃、これに対しイスラエル側も報復をした模様で、緊張感が高まっています。上川大臣は「先般のイランによるイスラエルに対する攻撃は、現在の中東情勢を更に一層悪化させるものであり、深く懸念し、このようなエスカレーションを強く非難する」と述べた上、双方に電話会談を行うなど、必要なあらゆる外交努力を行っていることを説明しました。すでにアメリカ、イギリスなどはイランへの制裁措置を発表しているが、双方に働きかけを行っているため、歩調を合わせるのには慎重な姿勢を示している印象を受けました。


また、ガザ情勢に関しては「即時の停戦を求めるとともに、それが持続可能な停戦につながることを強く期待しており、日本としても外交努力を積極的に、粘り強く行っていく」とした上で、日本がUNRWAへの資金拠出の一時停止を解除したことについて理解を求めました。

G7は、引き続き連携して中東情勢に対応していくことで一致しました。


中東セッションの様子(外務省):

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pc/pageit_000001_00534.html


日本リザルツはUNRWAのキャンペーン事務局をしています。G7首脳会合にむけて、中東問題、ガザ情勢について、どのように議論が進んでいくのか私たちも注視していきたいです。

(ぽ)

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2024年04月13日

能登支援活動をお手伝いして

地震から3カ月が経過しました。今週も日本リザルツとして、老眼鏡配布のボランティア活動に従事しました。2か月の活動を振り返って、少し感想をまとめたいと考えます。




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一部の被さい者の方々はそれぞれに地元に帰ったり、みなし住宅や仮設住宅に移住しており、それでもなお多くのお年寄りが、避難所での生活を余儀なくされている状況が続いております。彼らの心や生活に対して、さらにさまざまなケアが必要だと感じます。市や県そして国からの援助や保護が依然として必要です。

避難者は口をそろえて「家に帰りたい」と打ち明けていますが、各地域の人々の中には、家が全壊・一部損壊したために帰ることができない方々も見受けられます。行政による庇護も十分でなく、自己の努力や情報共有が必須となっております。そして、80代以上で携帯を持てない、身寄りもいない方が最も苦労していると思われます。県や市の職員も不足しており、職員自身も被さい者で、やらなければならない事項が多岐にわたり、心身ともに疲弊している方が数多くいます。国からの更なる支援が必要だと考えます。 


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自然の災害は、さまざまな地域事情や災害の特性、被さい者に対する生活支援や地方のライフライン、道路の再建状況などにより解決方法は異なります。しかし、被さい者の心のケアは全て同じで、これらを解決するためには、地方(自治体)と国がよく連携して、迅速な対応が必要です。また、支援も大切ですが、被さい者だけでなく支援者自身の生活も大切で、そのバランスを考える必要があると思います。


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私たちは自然の災害があった時、大いに無力感を感じます。しかし、自然災害を恐れたり恨むことはやはり良くないと思います。「兵が攻めてくれば将が防ぎ、大水が出れば土でふさぐ」、みんなで一緒に努力すれば解決できないことはないと思います。


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私も、被さい者やその支援者の人とともに歩んでいきたいと思います。


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【この活動は、赤い羽根共同募金・ボラサポ・令和6年能登半島地震の助成を受けております】


K.K.


posted by resultsjp at 22:45| Comment(1) | 能登半島地震