2017年05月17日

「差別」と「区別」  補遺あれこれA

日本語の一人称と二人称が、環境や置かれた立場などの「関係性」を色濃く帯びた使用法をされると書いた。それは、会話や文藝への影響も強いが、卑近な例として推理小説の例を挙げておこう。
英国の戦前の推理小説で、警官が素人探偵に「ため口」で話したり、「命令口調」で話しかけたりする翻訳を、ここ数年に複数冊、読んだことがある。現代ならいざ知らず、階級社会の色濃い時代に、明らかに「紳士階級」に属する素人探偵に対して、労働者階級である警官が話す口調とは思えない。警官の側で、内心の反感はあっても、口調はあくまで敬意をこめた丁寧な調子でないと日本語としてはおかしい。が、英語に明確な敬語表現もなく、「I」と「You」の代名詞だけでは、日本語に直した際の口調を推察するのは難しいかも知れない。が、翻訳者の誤訳であるのは間違いないだろう。
米国で非常に有名だが、日本ではあまり人気が出ない推理小説に、ネロ・ウルフのシリーズがある。エキセントリックな私立探偵と助手、料理人と園芸家の四人が同居する不思議な環境だが、語り手の助手の年齢や風貌、立場などが明確にはされず、小説の中でしか成立しない、対等の様で対等でない不思議な人間関係が表現された一種の御伽話になっている。ところが、日本語で「I」と「You」を訳すと、語り手の年齢や経歴、雇用主との関係などが明確になって、その途端に「現実にはありえない」人間関係であることが明らかになって、微妙な面白さが失われてしまう。日本語の翻訳では残念ながら味気ないこと甚だしく、これでは、日本では人気が出にくいのも無理はない。といって、その責任を翻訳者に背負わせるのは無理があろう。
日本人が、人称代名詞によって常に「関係性」を強く意識していることを示すものだが、そうした関係性意識の強烈さが、他人との「差」を強く意識させて日本社会特有の「差別」に繋がることがないのか、それが杞憂であればよいのだが。
(中)
posted by resultsjp at 22:29| Comment(1) | 情報
この記事へのコメント
そろそろ業務に関連することが読みたいな〜と魔法使いが。
Posted by 魔法使いの弟子 at 2017年05月17日 22:51
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]