2020年06月04日

読書会 ピーターピオット著「NO TIME TO LOSE」

先週5月25日(月)に、日本リザルツ東京事務所で読書会を行いました。私が発表したのはピーター・ピオット著「NO TIME TO LOSE」です。

この本は、国際連合合同エイズ計画(UNAIDS)初代事務局長・ピーター・ピオット博士の回顧録です。1976年にアフリカのザイール(現コンゴ民主共和国)でエボラウイルスの発見に寄与し、2008年末にUNAIDSを退官するまでが描かれています。日本リザルツ代表の白須は、以前にピオット博士とGaviワクチンアライアンスのセス・バークレーCEOを日本の財務省にお連れしたことがあるそうです。

私は特に、エボラウイルスの発見者とされている人物がどのようにしてUNAIDS事務局長になったのか、ピオット博士の専門性、人脈、考え方などに関心を持ちました。

ピオット博士は感染症・性感染症の専門家です。もともと、プロジェクト・プログラムの運営・資金調達に関わっていました。本書によると、ザイールでエボラウイルスの発見につながる調査の後、博士の興味は性感染症に移りました。博士は資金を調達しながらザイールやケニアで研究を進め、クラミジアのアフリカでの最初の研究にリーダーとして携わりました。本書によると、博士は、「米国疾病管理予防センター(CDC)の死亡疾病情報(MMWR)を毎号つぶさに読んでおり、謎の病気の発生に接すると、アドレナリンが一気に分泌される」ということでした。
その後も、医師として、ベルギー・アントワープで臨床を継続していた博士は、当時「ゲイ症候群」と呼ばれていた、極めて重症の感染症罹患を見かけるようになりました。博士は、この病気に特有の下痢の継続・体重の減少などが重症化する症状は、ゲイだけではなく女性にも見られることに気づきました。世界全体でも報告数が2000例以下という時代だった1983年に、博士は、ザイールでエイズと思われる症例を一日の朝だけで50例以上確認し、「信じられない。アフリカの大惨事。これこそが私が取り組むべき仕事だ。すべてを変えてしまうことになるだろう」とメモしたそうです。ザイールでのエイズ研究を通じてピオットは、ランセット、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに論文を発表し、エイズの母子感染についても新しいデータを蓄積しました。

ピオット博士の人脈に関して、ザイールにおいて博士は米国疾病予防管理センター(CDC)と国立衛生研究所(NIH)、ベルギー熱帯医学研究所が参加した「プロジェクトSIDA」で、特に臨床を担当しました。プロジェクトSIDAを率いたのは米国人医師・疫学者のジョナサン・マンであり、同氏は後に世界保健機関(WHO)の世界エイズプログラム(GPA)部長になりました。その後、GPA部長のジョナサン・マンとその後任のマイケル・マーソンから誘われ、博士はGPAに参加しました。そして、GPAへの参加を経て、WHO内に新しく発足するUNAIDSの初代事務局長に就任しました。

ピオット博士の考え方について、まず、同氏の生き方はNo Time To Loseという本書の題名に集約されているかもしれません。本書では、@ザイールで自分が搭乗する予定だったセスナ機が墜落して、後日、死体の回収に向かったAエイズが疑われる患者を採血した後に注射器のリキャップをしようして針刺しをしたB自身が乗った飛行機がハイジャックに遭ったCジョナサン・マンがジュネーブに向かう途中に飛行機事故で亡くなったが、同氏を呼んだのはピオットであった…といった、死と隣り合わせの様子が紹介され「私もそうなる前に、すべきことが山ほどある」と回想しています。

また、本書には、博士が、ザイールでエイズ調査を開始するプラスとマイナスの面について列挙した記述が多く出てきます。「問題が極めて深刻、人助けになる変革、名誉、刺激的な研究、多くの論文発表、ザイールでの長期プログラム実施の可能性」があり、新しい感染症への興味をプラスとする一方、「ザイールへ年に数回、加えてナイロビへも旅行、ザイールでもベルギーでも米国人相手に大量の事務処理、果てしなきいざこざの調停、NIHへの頻繁な報告書提出」をマイナスと捉えたそうです。とはいえ「リストは不要で、私の心はすでに決まっていた。人生で極めてまれな瞬間の一つで、大きな軌道の変更をほとんど自動的に決めていた」と振り返っています。

博士が引用した言葉には重要な示唆に満ちていると私は感じました。本書によれば、USAIDS初代事務局長への就任時、後に国連事務総長になるコフィー・アナンは「おめでとうピーター!一つ話をしよう。死を覚悟した老人がいた。彼は二人の子どもに、彼とともに船に乗り込み、大洋へ漕ぎ出すように言った。海岸が見えなくなるところまで来ると、子どもたちに船を停めるように命じ、次のように話した。『お前たちに伝えておきたい。海にはたくさんのサメがいる。だから海には落ちないように。もし落ちても、血を流さないように。』幸運を祈る。コフィー」と伝えました。この話の意味を、ピオット博士は「多国間政治の荒波を超えて航海を続けながら繰り返し考えてきた」そうです。また、UNAIDSで博士の後任の事務局長となる、マリ出身のミシェル・シディベのカメレオンの話も興味深いものでした。シディベの出身地では、大人になるための儀式として、思春期を迎えると同じ部族の少年たちと一緒に暮らしながら、一週間カメレオンを観察し、カメレオンを通じて人生の教訓を学ぶそうです。それは、@カメレオンは頭をまったく動かさない。常に同じ方を向いている。目標に専念せよA眼は周囲の状況を見るために絶えず動いている。常に備えよB環境に応じて色が変わる。柔軟であれCカメレオンは動きがとても慎重だ。一度に一歩、注意して動けDカメレオンは舌で獲物を捕まえるが、早すぎても遅過ぎても獲物を逃し、生きてはいけない。タイミングがすべてだ。

是非、皆さんにもお読みいただければと思います。

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posted by resultsjp at 16:53| Comment(2) | HIV/AIDS
この記事へのコメント
ピオット博士は性感染症の専門家なんですね!
Posted by MU at 2020年06月04日 17:11
ピオット博士がコロナウイルスの感染拡大についてどのように分析していらっしゃるか知りたいです。


Posted by ひよこ at 2020年06月04日 20:48
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