G7長崎保健大臣会合が13日、14日に終了しました。
広島サミットが今週末に迫っていますので、今日は保健大臣会合の内容を見つつ、保健分野に関連する他の大臣会合の成果文書も一緒に見ていきたいと思います。
会合では、新型コロナの経験を踏まえ、今後、新たなパンデミックが起きた場合、速やかに、低所得国も含めて世界すべての地域で等しく対応ができるよう取り組みを進めていけるよう、共同声明が発表されました。
では共同声明を見ていきましょう。
採択された大臣宣言では、コロナ禍ではワクチンなどの開発が迅速に進んだ一方、アクセスや調達に課題があったことを指摘。保健システムの強化に加え、「公平性、包摂性、効率性、負担可能性、質、説明責任、機動性、迅速性のある」システムを構築する必要があるとしています。
具体的には、@グローバルヘルス・アーキテクチャーの強化、Aユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成、Bヘルス・イノベーションの3点に注力することが述べられています。
@グローバルヘルス・アーキテクチャーについて
ここで注目したいのが、ヘルスファイナンスに関する記述が多くみられたことです。財保連携強化の継続については、「G20 財務・保健合同タスクフォースと国際通貨基金(IMF)、世界銀行、WHOなどの国際機関との協力の継続を支持する」としています。
また、世界銀行にパンデミック基金が設立されたことを歓迎するとともに、新たな資本枠組みを設立することが言及されました(以下原文)。
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既存のマルチの仕組みを、調整改善を通じて補完し、未使用の資金を蓄積することなく、パンデミック発生時に必要な資金を迅速かつ効率的に供給できる、「サージ」ファイナンスの枠組みを G20 財務・保健合同タスクフォースや国際的なパートナーとの緊密な協力の下、検討することにコミットする。
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これについてはG7財務・保健大臣合同会合において、「財務・保健の連携強化及びPPR ファイナンスに関する G7 共通理解」が承認されているほか、先んじて開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会合の声明内の「国際保健」にも具体的に記述がなされており、力の入り具合がよくわかります。
財務・保健の連携強化及びPPR ファイナンスに関する G7 共通理解(厚労省:日本語)
https://www.mhlw.go.jp/content/10500000/001096394.pdf
参考)G7 財務大臣・中央銀行総裁声明(財務省:日本語)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/g7_20230513_1.pdf
尚、現在交渉が続いているパンデミック条約と国際保健規則(IHR)の改正については、補完性を確保しつつ、ギャップや重複を避けるために、密接に関連させる必要があり、そのための「モメンタムを持続する」という決意はありましたが、具体的な締結時期などについては言及がありませんでした。
このほか、人材育成やサーベイランスについても触れられていました。
AUHCについて
PHC を含む UHCを達成することが重要という基本的な方針は変わらないものの、個別の保健課題として、「定期予防接種、HIV/AIDS、結核、マラリア、ポリオ、麻疹、コレラ、顧みられない熱帯病(NTDs)、肝炎、薬剤耐性(AMR)、メンタルヘルスを含む非感染性疾患(NCDs)、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)、母子・新生児・思春期の健康、健康的な高齢化、栄養、水・衛生(WASH)、気候変動や大気汚染」などが挙げられていました。日本リザルツが特に力を入れている疾病も具体的に言及されました。
これに関しては各国におけるより強靱、より公平、より持続可能な UHC の達成に貢献するために G7 にどのような行動が求められるかを記述した「G7 UHC グローバルプラン」が別途採択されています。
G7 UHC グローバルプラン(厚労省:日本語)
https://www.mhlw.go.jp/content/10500000/001096406.pdf
ここでも資金調達に関する言及があり、民間投資を推進するため官民連携パートナーシップを歓迎することが明記。具体的な機関としてWHO、世界銀行、Gavi、Unitaid、グローバルファンド、グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)、パンデミック基金が挙げられていました。
栄養に関しては個別に項目ができており、「UHCを達成するために栄養不良に終止符を打つことが不可欠」とし、栄養の主流化について触れた上、「東京栄養サミット 2021 における成果を歓迎し、フランスでの栄養サミットにも野心的に貢献することを約束する」という力強い文言が入っていました。
これについては、G7外務大臣会合でかなり詳しく取り上げてられており、共同声明内では、食料配給のな一過的なものではなく、肥料や水へのアクセス、気候変動、農業生産性などを含めた、持続可能なフードシステムの構築に向けた言及が多くみられました。
G7外相会合共同声明(外務省:日本語)
*グローバルヘルスについても言及あり
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100492726.pdf
Bヘルス・イノベーションについて
ここでも「ACT-A の経験から学んだ教訓をもとに、関連する政府、多国間パートナー、WHO、世界銀行、ユニセフ、グローバルファンド、Gavi、GHITファンド、CEPI、FIND、Unitaid、Medicines Patent Pool(MPP)といった製品開発のパートナーシップ、規制当局や BARDA、HERA、AMEDといったヘルス・イノベーションに関連する機関、二国間・多国間の開発銀行やイニシアティブ、市民社会、民間パートナーとの連携を含めて、持続的にかつ迅速に、公平性、透明性、有効性があり、入手可能な価格でのアクセスを実現する環境醸成を行い、イノベーションと包摂的なパートナーシップの触媒とする」とし、改めて次のパンデミックに備えるための枠組みの重要性が強調されました。
ワクチンに関する意識啓発についても。「WHO やそのガイドラインとうまく連携しながら、ワクチンに関するインフォデミックや誤情報に対抗する」としています。
参考)日本経済新聞への寄稿
http://resultsjp.sblo.jp/article/189312267.html
AMRについては具体的に項目ができており、「AMR をはじめとして、コロナ、HIV/AIDS、結核、マラリア、NTDs といった感染症に対処するために、抗菌薬の適正な使用、感染予防と管理、衛生環境の改善や保健指導といった非薬物的介入を含む、革新的な技術の開発及び実践に対する投資を支持する」としています。結核については、多剤耐性結核菌(MDR-TB)と超多剤耐性結核菌(XDR-TB)が非常に問題であることが、個別に明記され、スクリーニングと治療法の開発が急務であることが入れ込まれました。
会合後の会見で、加藤大臣は「より健康な未来に向けて新たな協働の方向性を示したことは大変有意義な機会だった」とし、G7広島サミットで今回の議論をさらに具体化させる旨を明らかにしました。
加藤大臣の会見(厚労省:全文)
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00557.html
G7長崎保健大臣会合に関するサイトはこちらを参照(厚労省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/g8/g7health2023.html
G7広島サミットは19日に開幕します。どのような成果文書が出されるのか、私たちも注視したいと思います。
(ぽ)