G7広島サミットの首脳コミュニケが発表されました。
英語原文:
https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/Leaders_Communique_01_en.pdf
日本語:
https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/Leaders_Communique_01_jp.pdf?V20230521
今回のコミュニケですが、日本リザルツが重点的に取り組んでいる栄養、感染症、ワクチン、公衆衛生、UHC、R&D、ヘルスファイナンシングなどについて具体的な記述が入っている印象を受けました。コミュニケの順に沿って見ていきたいと思います。
*本文も文中にハイライトしています。
◆食料安全保障(栄養部分)
まず、食料安全保障部分で栄養が人間中心のアプローチの観点から重要であり、「学校給食プログラムを含む健康的な食事へのアクセス改善」が必要であることが入れ込まれました。日本らしい取り組みが具体的に入り、今後、ますますJapan Nutritionが世界に広がっていくのではと感じました。
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32.我々は、人間一人ひとりに焦点を当て、各人が手頃な価格で、安全、十分かつ高栄養価の食料への安定的なアクセスを可能にすることが不可欠であるという見解を共有する。全ての人々が十分な食料への権利を漸進的に実現するために、我々は、短期的な食料危機への対応から食料システムを持続可能なものとするための中長期的な取組といった食料安全保障のあらゆる側面において、女性や子どもを含む最も脆弱な人々を保護、支援する必要性を確認する。また、栄養は、人間中心のアプローチの観点から基本的なものであり、我々は、学校給食プログラムを通じたものを含む健康的な食事へのアクセス改善の重要性を強調する。我々は、地方、地域、世界の食料サプライチェーンの強化、多様化、持続可能性の確保や、構造的ボトルネックの解消を通じた、包摂的で、強靱で持続可能な農業と食料システムの確立が急務であることを認識する。これには、既存の国内農業資源を活用し、貿易を促進することによる現地生産能力の向上、気候変動への適応と気候変動の緩和、生物多様性の保全を伴う持続可能な生産性向上、持続可能な食料消費などが含まれる。我々は、地域や環境、農業の条件に適し、小規模農家を含む全てのステークホルダーに利益をもたらす、幅広いイノベーションと技術を推進する。また、研究開発(R&D)や責任ある投資において、中小企業やスタートアップを含む民間セクターの役割を強調する。手頃な価格、アクセス可能性を維持し、サプライチェーンの混乱の影響を軽減するために生産を多様化し、適切かつ安全な肥料の使用を含む肥料の効率的で責任ある使用と土壌の健全性を促進する必要があると認識する。我々は、WTOルールに沿った形で、摂氏1.5度の温暖化抑制とパリ協定の目標と整合的に現地エネルギー源の活用を支援することを通じ、現地の肥料生産を含む肥料バリューチェーンを支援することの重要性を認識する。などを通じ、これらの取組についてより広範なパートナーシップを強化する。我々は、付属文書「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」に示された具体的な措置をパートナー国と共に取り組むことをコミットし、国際社会におけるより広範な協力を要請する。
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◆保健:@グローバルヘルス・アーキテクチャー
続いて、保健分野です。先日ブログでも取り上げたG7長崎保健大臣会合や関連する会合での議論を受け継いだ形となりました。@グローバルヘルス・アーキテクチャーの強化、Aユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成、Bヘルス・イノベーションの3点にわけてコミュニケに記載がなされています。特にG7財務大臣・保健大臣会合で集中的に議論されたサージファイナンシングに関しては記述が多く、財保連携強化についても具体的に明記がされていました。ガバナンスや保健財政にコミットが強まっていることを受け、今回の一連の会合の成果文書を見ていますと、保健分野においても世界銀行の存在感が高まっているのがよくわかります。
G7長崎保健大臣会合を含む関連会合での成果文書などはこちらのブログを参照:
http://resultsjp.sblo.jp/article/190358750.html
http://resultsjp.sblo.jp/article/190352317.html
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33. 我々は、COVID−19のパンデミックが国際社会に前例のない影響を与えたことを認識し、パニックと無視の連鎖を断ち切るため、将来の公衆衛生上の緊急事態に備え、世界保健機関(WHO)を中核としつつ、グローバルヘルス・アーキテクチャー(GHA)を発展させ、強化することへの強いコミットメントを新たにする。この目的のために、我々は、WHOの主導的役割を強調しつつ、重複を回避し一貫性を確保するため、パンデミックへの対応に関する新たな法的文書(WHO CA+)、国際保健規則(IHR)の部分改正及び2023年9月のパンデミックの予防・備え・対応(PPR)に関する国連総会ハイレベル会合を含む進行中の議論に留意しつつ、正当性、代表性、公平性及び有効性を確保する、保健分野の緊急事態のPPRのための、より協調的で持続的な首脳級のガバナンスに向けた政治的モメンタムを更に高めることにコミットする。
我々はまた、国際保健においてWHOが主導的かつ調整のための役割を果たすために持続的に資金を確保することを見据え、予算案とともに改革の進捗を注視することの重要性を考慮しながら、分担金の割合を2022−2023年のWHOの基本予算の50%に引き上げることに向けて取り組むという第75回世界保健総会(WHA)における画期的な決定を称賛する。我々はまた、G20財務・保健合同タスクフォース(JFHTF)の継続中かつ不可欠な作業等を通じて、パンデミックのPPRのための財務・保健当局間の連携を強化するという我々のコミットメントを再確認する。我々は、パンデミック基金(PF)の立ち上げを歓迎し、初回案件募集の成功裏の実施を期待し、より幅広いドナー層からのPFへの積極的な参加と貢献の増加を奨励する。我々はまた、2027年までの更なる5年間について2022年にコミットしたとおり、IHRで求められる中核的な能力の実施に当たり、少なくとも100の低・中所得国を支援するというG7の目標達成のために、作業計画の共有及び追跡、優先国の取組及び進捗の奨励などに共に取り組むことにコミットする。我々はまた、パンデミックへの対応のためのファイナンシングの強化の必要性を強調する。このため、我々は、既存の資金源をパンデミックへの対応に如何に活用できるかを包括的に評価すること、調整改善を通じて既存のメカニズムを補完し、未使用の資金を蓄積することなく、パンデミック発生時に必要な資金を迅速かつ効率的に供給できる、サージ・ファイナンスの枠組みを検討することにコミットする。この目的のため、我々はG7財務・保健大臣合同セッションにおいて承認された、財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解を歓迎する。我々は、パンデミックの PPRを強化するためには、公平性を指針として国際規範及び規則を強化することが不可欠であることを再確認しつつ、2024年5月までの採択を目指したWHO CA+の交渉及び国際保健規則を強化するための対象を絞った改正に関する交渉に、全てのステークホルダーと共に貢献し、そのモメンタムを維持するとのコミットメントを改めて表明する。さらに、我々は、「パンデミックへの備えに関するG7合意」に沿って、平時及び危機の双方において、新たな及び進行中の保健上の脅威の多分野にわたる統合サーベイランスのために、関連するデータ保護規則の尊重を確保しつつ、安全かつ確実な方法で、病原体、データ及び情報を適時に、透明性を持って体系的に共有することの重要性を改めて表明する。また、我々は、健康危機管理部隊の検討を含む公衆衛生及び健康危機時の人材などの、十分かつ質の高い保健医療人材を世界中で常に強化し、維持することの重要性を認識する。我々は、WHOアカデミーを始めとする専門家のグローバルネットワークや研修の更なる強化を支援し、同一労働同一賃金のディーセント・ワークを推進し、緊急時や紛争時等において医療従事者を保護する。我々は、脆弱な状況にある人々に手を差し伸べることを含め、市民社会が果たす不可欠な役割を認識し、全ての人にとって、より健康な未来のために協働することに改めてコミットする。
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◆保健:Aユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成
UHCについては、結核、NTDs、ポリオ、AMR、ワクチン接種、水と公衆衛生など、個別疾病名が入っていたのが印象的でした。他方、以前から議論が続いているUHCセンターの設立に関しては「UHCに関する世界的なハブ機能の重要性に留意する」と述べるにとどまりました。
また、ここでも栄養に関する記述が入り2024年のパリ栄養サミットに向けて、「2021年の東京栄養サミット(N4G)の成功を基礎とする」という野心的な記述が入りました。
「グローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブ」(
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100507017.pdf
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34. 我々は、2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成し、SDGsの目標3への進捗を加速させることの重要性を強調しつつ、70年以上ぶりの世界的な平均寿命の低下を反転させることにコミットする。我々は、平時の保健システムを強化する取組の一環として、2025年末までにパンデミック前の水準より改善させることを達成するために、プライマリー・ヘルスケア(PHC)の支援、必須の保健サービスの発展及び回復を通じて、各国がUHCを達成できるよう、グローバルなパートナーと共に支援することに改めてコミットする。我々は、医療従事者の強化によるものを含め、各国がPHCの提供を強化することを支援することにコミットする。また、我々は、妊産婦,新生児及び乳幼児の死亡率の低減を含め、生存率をパンデミック以前のレベルよりも良い状態に、かつあらゆるSDGsの目標及び我々が同時に進捗を支援するUHC関連の指標と一致するように戻すことを支援することにコミットする。我々は、医療費によって人々が貧困に陥ることを防ぐために財政リスクから保護することの重要性を認識する。この目的のため、我々は、UHC行動アジェンダに関するG7グローバル・プランを承認し、関連する国際機関を支援し、財政、知見の管理、人材を含むUHCに関する世界的なハブ機能の重要性に留意する。我々は、人道的な状況における場合も含め、HIV/エイズ、結核、肝炎、マラリア、ポリオ、麻疹、コレラ、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症、薬剤耐性(AMR)、メンタルヘルス症状を含む非感染性疾患(NCDs)、全ての人の包括的な性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の実現並びに定期予防接種、健康的な高齢化及び水と衛生(WASH)の促進といった、パンデミックによって大きく後退した様々な保健課題に対応する上で、UHCの不可欠な役割を再確認する。我々は、COVID−19感染後の症状の理解に焦点をあてたものも含め、この観点における研究の先頭に立つことにコミットしている。我々は、グローバルファンドの第7次増資の歴史的な成果に留意し、HIV/エイズ、結核及びマラリアの流行収束に向けたG7及びその他の国々からの財政支援を歓迎する。我々は、2026年までのポリオ撲滅を軌道に乗せるために、世界ポリオ根絶計画(GPEI)に対する継続的な支援を求める。我々は、栄養を改善するため、2024年のパリ栄養サミット(N4G)2024に向けて、2021年の東京栄養サミット(N4G)の成功を基礎とする。我々は、特に脆弱な状況にある妊産婦、新生児、乳幼児及び青少年を含む全ての人の包括的な性と生殖に関する健康と権利(SRHR)を更に推進することにコミットする。我々は、グローバルヘルス・イニシアティブとそのインターフェースを含む国際保健のパートナーシップの包摂的かつ制度レベルの調整と整合化の必要性が高まっていることを認識しつつ、国際保健におけるガバナンスを強化し、UHCの達成を支援する観点から、断片化及び重複を避け、説明責任を果たし、その効果を最大化し、各国のリーダーシップを強化するための共同の行動を取る。この観点から、我々は、「グローバルヘルス・イニシアティブの将来(Future of Global Health Initiatives)」の成果を期待する。我々は、UHC、結核及びパンデミックPPR に関する次期国連総会ハイレベル会合を最大限に活用し、相乗効果を確保すること等を通じて、UHC達成に更に貢献する決意を改めて表明する。COVID−19後の時代に向けた国際保健に貢献するため、UHCの達成を支援し、PPRを強化する観点から、我々は、官民合わせて480億ドル以上の資金貢献を強調する。また、我々は、更なる国内資金動員及び既存の資金の効率的な活用を求める。我々は、インパクト投資も通じたものを含む、国際保健における持続可能な資金調達に向けた民間セクターの重要な役割を強調し、「グローバルヘルスのためのトリプル I(インパクト投資イニシアティブ)」を承認する。
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◆保健:Bヘルス・イノベーション
イノベーションについても、関連する国際機関や官民連携パートナーシップの名称が個別具体的に入るのが目に入ります。GGGやCEPI、UNITAID、世界銀行など日本リザルツが連携するパートナーも含まれていました。
また、報道を注視していたワクチンの南北格差についても「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのためのG7広島ビジョン」が採択され、今後、取り組みが進むことが予想されそうです。
報道に関するブログはこちらを参照:
http://resultsjp.sblo.jp/article/190333080.html
「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのためのG7広島ビジョン」(日本語)
https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/session3_01_jp.pdf
薬剤耐性については以前、ブログ内で元厚生労働大臣の塩崎恭久先生の寄稿をご紹介させていただきましたが、個別にかなりの分量を割いて明記がなされていました。2024年にはAMRに関する国連総会ハイレベル会合があり、今後、さらなる取り組みの推進が期待できそうです。
塩崎先生の寄稿に関するブログはこちらを参照:
http://resultsjp.sblo.jp/article/190196358.html
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35. 我々は、デジタルヘルスに関するものを含む革新的な取組が、GHAの強化とUHCの達成の鍵となることを再確認する。我々は、イノベーションを促進し、100日ミッションで強調された安全で有効な、品質が保証され負担可能な感染症危機対応医薬品等(MCM)の研究開発を強化することが緊急に必要であることを改めて確認する。我々は、製造及びデリバリーに関する課題に対応することを通じたものを含め、MCMへの公平なアクセスを強化することにコミットする。この観点から、我々は、WHO、世界銀行、国連児童基金(UNICEF)、グローバルファンド、Gaviワクチン・アライアンス、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)、革新的新規診断開発基金(FIND)、ユニットエイド及び医薬品特許プール、地域機関及び民間セクターを含む関連するパートナーと協力しつつ、WHO CA+に関して進行中の議論と整合し、かつMCM製造の多様化に積極的に貢献し、グローバルガバナンスの面も含めて、最も脆弱なパートナーのニーズと期待という優先事項に対処すべきである、エンド・ツー・エンドのMCMエコシステムに関するG20を含む進行中の議論に引き続き貢献する。このため、我々は「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのためのG7広島ビジョン」を発表し、公平性、包摂性、効率性、負担可能性、質、説明責任、機動性、迅速性といった原則に基づき、MCMへのより公平なアクセスとデリバリーに貢献するための「感染症危機対応医薬品等(MCM)に関するデリバリー・パートナーシップ(MCDP)」を立ち上げる。関連の機関が危機のより早い段階でMCMを調達し供給するための流動性を提供するための具体的な選択肢を今夏に特定する目的で、開発資金供与者間で協力することにコミットする。WHOと世界銀行が実施し、G20財務・保健合同タスクフォース及び国連ハイレベル会合で発表されるサージ・ファイナンスに関するマッピング演習を支援するものであり、WHO CA+に関する進行中の交渉に貢献するものである。我々はまた、統合的な取組を通じて、全体的なワンヘルスアプローチを適用することにより、気候変動、生物多様性の損失及び汚染によって悪化するものを含む国際保健上の脅威に対処することへのコミットメントを改めて表明する。 我々は、薬剤耐性(AMR)の世界的かつ急速な拡大を認識しつつ、2024年のAMRに関する国連総会ハイレベル会合に向けて、抗菌薬の研究開発を加速させるためのプッシュ型及びプル型のインセンティブを探求し、実施するとともに、抗菌薬へのアクセス及び抗菌薬を慎重かつ適切に使用するための管理を促進することに引き続きコミットしている。我々は、認知症を抱える人々をケアするための政策及び資金投入を推進し、アルツハイマー病を含む様々な種類の認知症に対する疾患修飾の可能性がある治療薬の開発を歓迎する。
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全ての関連文書はこちらからご覧いただけます。
https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/
保健分野が議論されたセッション6の様子はこちらを参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page1_001701.html
コミュニケを作っても本当に困っている人に届かなかったら意味がありません。コミュニケが具体的な施策となって、どのように履行され、本当に困っている人や世界の皆さんに届いていくのか?ここからがスタートで、正にG7各国の手腕が問われる時だと思います。議長国として日本の継続的なリーダーシップに期待しています。
(ぽ)