2014年08月05日

レイテ島 結核調査報告24(調査結果1)

8週間に及んだレイテ島結核調査の報告書作成が終了しました。今回から数回にわたり、ブログで調査結果の要点をご報告いたします。今回は、フィリピン国における結核対策の概要です。

フィリピンでの結核対策「国家結核プログラム(NTP:National TB Control Program)」は保健省の公衆衛生プログラムの一つで、NTPにおける診断や治療のプロトコールはStop TB Partnershipの地球規模の対策、WHOの政策と結核ケアの国際的スタンダード(ISTC: International Standards on TB Care)と一致しています。NTPは保健省や地方行政局だけでなく、健康保険公社や国際機関をも巻き込んで協働しています。

地方分権化が非常に進んでいるフィリピンでは、国、地域、町/市、村それぞれのレベルでの結核管理やその実施者が決められており、結核の診断や治療は公・私立の保健施設だけでなく、薬局、刑務所、学校、軍病院、研究所と総力を挙げて結核対策を実施しています。

DOTS(Directly Observed Therapy Shortcourse)は1996年より開始し、DOTSの基本的な5要素である、1)喀痰顕微鏡検査の質の確保、2)抗結核薬の不断の供給、3)管理下における結核治療、4)患者とプログラムのモニタリング、5)行政の関与、に関しては2006年から2010年の国家結核対策(WHO承認のStop TB strategy)に組み込まれました。その後保健省は2010年に「2010−2016フィリピン国家結核管理計画(2010-2016 Philippine Plan of Action to Control TB (PhilPACT))を制定、以下の8点が重要戦略として述べられています。
1.公私協働でのDOTS実施(Public-Private mix DOTS)
2.病院におけるTB-DOTS強化(Enhanced hospital TB-DOTS)
3.薬剤耐性結核のプログラムを通した管理(Programmatic management of DR-TB)
4.結核とHIV/AIDS二重感染に対する諸活動(TB HIV/AIDS collaborative activities)
5.刑務所における結核(TB in prison)
6.TB-DOTS認証、認定(TB-DOTS certification and accreditation)
7.結核臨床検査センターの増設(Expansion of TB laboratory services)
8.コミュニティでの結核ケア(Community TB care)

さて、このPhilACT、「2016年までに結核の死亡率と罹患率が1990年当時より半減する」ことをゴールに定め、そのゴール達成のためのターゲットが以下の4つです。

1.症例発見率、全ての型(Case detection rate, all forms):90%
2.治癒成功率、全ての型(Treatment success rate, all forms):90%
3.多剤耐性結核の報告率(Notification rate of MDR-TB):報告された全結核症例のうち、推定多剤耐性結核症例が40%
4.多剤耐性結核の治癒成功率(Treatment success rate of MDR-TB cases):75%

今回は、NTPの簡単なご紹介をさせて頂きました。
次回以降、調査対象地域におけるNTP(PhilACTも含め)の実施状況をご報告いたします。(wku)

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2014年07月04日

レイテ島 結核調査報告22

今回の調査は、プライマリー・ヘルスケア・センターである町/地区保健所を中心に、多剤耐性結核治療センター(病院)や各保健局を対象として調査の結果をご紹介してきました。このブログでは、今回詳細な調査は行わなかったものの、この病院を抜きにして東ビサヤ地域の医療を語ることは出来ない!と言っても過言ではない、全東ビサヤ地域の医療を担っている病院をご紹介します。

タクロバン港の近くにある、「東ビサヤ地域医療センター(EVRMC:Eastern Visayas Regional Medical Center)です。国立病院で、東ビサヤ地域(レイテ、南レイテ、サマール、北サマール、東サマール、ビリラン州)での公的部門の第3次医療施設(最高次)に位置づけられており、また医療研修センターとしてもその機能を果たしています。この病院には各科の専門医が揃っていることから、それぞれの州の地域医療センター(保健所や病院)から多数の患者が搬送されてきます。

結核治療という面においては、最新機器が揃っているこの病院は検査センターとして機能しており、検査で陽性が出た患者さんは、居住地の保健所に戻って治療が行われることになっています。

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昨年11月の台風ハイエンにより、海沿いにあったEVRMCは大被害を受けましたが、調査時には壁が綺麗に塗り替えられ、病院の中も壁や床はピカピカに磨かれていました。

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一方で病院の裏側には、台風の被害で使えなくなってしまった機材が山積みになったままになっていました。

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これは、輸血用血液を保存する冷蔵庫のようです

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こちらは、新生児用の保育器

現在もところどころ工事中ですが、速いスピードで復旧作業が行われています。

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手前の建物は、台風前から建設中であった拡張施設です。
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(wku)
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2014年07月02日

レイテ島 結核調査報告21

カルビアン町のRHU(Rural Health Unit)やTB-DOTSセンターでの調査報告です。

カルビアン町はレイテ島の西北端にある細長い町で、RHUの医師を始めとしたスタッフは、週の何日かは遠隔地にある村保健所で診療を行っています。

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RHUの入り口にある診療スケジュール。「RHU」以外は、遠隔地にある村保健所の名前です。

私が調査に行った日は、結核コーディネーターはRHUから35km離れている村保健所でコミュニティ・ヘルス・ワーカーの定期ミーティングに参加していました。訪ねた村へは舗装されていない道をRHUから車で約1時間、地元出身のドライバーさんも「生まれて初めて来た」というほどの僻地です。辿り着いた場所は海と山に囲まれた小さな漁村で、町中心部へのアクセスが非常に悪く、この村での定期的な医師や保健師の訪問診療の必要性があるのもうなずける場所でした。

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こちらがその時に訪問した村保健所。定員2名ほどの部屋が3つ、非常にこじんまりとしています。

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村保健所の隣にある井戸で洗濯をしていた子ども達

昨年11月の台風で、RHUは小規模の被害を屋根に受け、町政府が修理をしましたが、未だに雨漏りが起こります。電気の供給は台風直後から11月11日まで全くなく、その後は保健省から貸与された発電機を使い、最終的には12月中旬には電気が再供給されました。ワクチンは11月9日から11日までカルビアンにある地区病院に保管していました。

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こちらはRHU

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RHUの待合室

この施設には常駐の臨床検査技師はおらず、州保健局から週1回派遣されています。喀痰検査は週1回しかできないものの、ボランティアの検査アシスタントは毎日勤務しており、喀痰検査用のサンプルは毎日収集し、スライド作りは出来ていますので、検査のタイミングを失うことはありません。

カルビアンの結核治療で特徴的だったのは、町の地理的状況のため、村保健所で治療をしている患者さんは村担当の助産師にその全てを委ねていることです。結核コーディネーターが全ての症例に携わっていることの多いレイテ州のRHUで、ここは唯一「結核コーディネーターが直接顔を見ることのない患者が存在する」RHUです。それではあっても、結核コーディネーターは週1回、結核の登録名簿及び治療経過のログブックに目を通し、患者の治療経過等をチェックし、把握しています。

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抗結核薬が保管されている棚

他のRHUで採用されている治療開始前の契約書に関しては、以前はこの施設でも患者全員を対象に使っていましたが、3年前より廃止しています。これは、長年カルビアンRHUに勤務している結核コーディネーターの経験に基づく判断で、契約書にサインをしてもしなくても、結果に影響はない、とのこと。大切なのは、契約書よりも事前の厳しく細かいカウンセリングであると仰っていました。

結核の再燃患者はごく稀に見られ、MDR-TB症例はこれまでに1例。結核治療中に妊娠したことで治療を中断し、出産後治療を開始した際にパロに転院したところ、MDR-TBであることが判明した症例です。小児結核症例はなく、また子どもに対する予防措置症例もありません。

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抗結核治療薬等を州保健局に取りにいくためにも使っている救急車

TB-DOTSセンターはRHUの敷地内に建設中。今年2月に着工したものの、まだ完成しておらず、しかも完成予定は未定だそうです。この建設中TB-DOTSセンターはIMPACT(USAID)の研修で示された感染症対策に沿ったデザインとなっています。

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(wku)
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レイテ島 結核調査報告20.5


ある日、宿泊先の近くで沈む夕日を眺めていました。

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真っ赤な夕日を見つめながら、今日一日も無事に調査を終えて一息つき、人気のない海岸でにわとりの鳴く声が聞こえるけれど、姿が見えないので周囲を見回すと・・・

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木に登るにわとり!

フィリピンの田舎では、道を闊歩している姿をよくみかけるニワトリ。私にとっては、ニワトリは犬の次によくみかける動物で、家畜としてのニワトリの他に、非常に綺麗に手入れされた、色とりどりの立派な羽を持った闘鶏用の雄鶏もよく見かけました。闘鶏用のニワトリは家畜用にくらべて100倍の値段がつくほど高く、大切に大切に抱えられています。徹底的に闘う闘鶏用のニワトリは、家畜としてのニワトリよりも数段気性が荒いようです。

先ほどの写真を見る限りでは、闘鶏用だけでなく家畜用のニワトリもかなり逞しいようですね。
(wku)


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レイテ島 結核調査報告20

さて、今回はババトゴン、カポオカン町のRHU(Rural Health Unit)やTB-DOTSセンターでの調査結果です。

ババトゴンRHU:結核コーディネーターは通常町保健師ですが、このRHUはレイテ州で唯一、助産師が結核コーディネーターとなっています。TB-DOTSセンターはありますが、RHUと完全に隔離されている訳ではなく入口が一緒です。入り口を別にする工事は計画のみで、具体的な時期や日程は未定のようです。

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昨年11月の台風では建物の被害はなく、外のフェンスがごく一部壊れただけで業務には支障がないためか、現時点で修復等の計画がありません。台風被災後から電気の供給が再開されるまで喀痰塗抹検査が実施できず、患者さんたちはバスやバンで約1時間離れているタクロバン市内の病院か、東ビサヤ地域医療センター(EVRMC)で喀痰検査を行っていました。また、台風後の患者数は、昨年の同時期(1-3月)に比べると減っているとのことでした。

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沢山の人でごった返していた待合室でした。

一般的に、結核治療スケジュール等や方法は、保健省が発行しているプロトコールに沿って行っているのでRHU間で大きな差はありません。細かい部分で地域の事情により柔軟に対応しています。例えば、DOTS治療を行う場所がRHU一箇所である町もあれば、RHUだけでなく村のヘルスセンターでも出来る町があったり。また治療パートナーが患者の家族であったり第三者(医療ボランティア)であったり。

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ババトゴン町では、昨日のブログ(http://resultsjp.sblo.jp/article/100882513.html)にあったサンイシドロ町のように、経済的に余裕のない患者に対しては、RHUスタッフが村の役人に働きかけて交通費を工面してもらっています。そのため、毎週RHUに来ることが出来ない、という患者はいません。
どうやらこの町の村役人の力は大きいようで、治療中のドロップアウト患者発生の防止のため、全ての患者から治療開始時に誓約書のサインをとっているのですが、「もし治療を途中でやめてしまうならば、村役人に連絡する」という内容が含まれる誓約書になっています。それらの工夫のお陰で、治療期間中のドロップアウト患者はいない=この施設で治療を開始した全ての患者は、かならず治療を完了しています。

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ババトゴンは抗結核薬や種々の備品等を必要時に州保健局に行く体制が整っており、パロ町から近く、アクセスには問題ありません。ほとんどのRHUで在庫のない抗再燃結核薬、このRHUにも在庫はありませんが、MDR-TB(多剤耐性結核)治療センターが近いため、MDR-TB疑いとなった時点ですぐに搬送しています。ちなみに、MDR-TB患者は現在までのところ症例はありません。小児結核症例はツベルクリン反応薬がないために治療例がありませんが、喀痰検査陽性患者を家族に持つ子どもで5歳以下であれば、検査なしで予防措置を取ることとなっており、現在2名の子どもが予防措置をとっています。

今回お話を聞いた結核コーディネーターは2000年から現職に就いており、2000年当時と現在を比較すると、結核に対する偏見の強かった2000年当時は、現在に比べてRHUが把握している(登録されている)患者さんが非常に少なかったそうです。健康教育や地道なアドボカシーで、少しずつではありますが住民のみなさんのご理解とご協力を得られるようになってきています。

カポオカンRHU:昨年11月の台風で部分的に被害を受け、分娩施設の屋根・天井が飛び、保健省の「Quick fix」予算で修理を行いました。TB-DOTSセンターは、結核患者とRHUの患者を完璧に隔離できるわけではないため、早急に改善措置を取るそうです。

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このRHUは海の傍にあり、RHUの目の前には現在も写真のような状態です。

この施設には常駐の臨床検査技師がおらず、州保健局から週1回、毎週火曜日に派遣されています。電気は昨年12月末に再供給となりましたが、台風直後は保健省から貸与された発電機を使っていました。電気がなく、喀痰検査が出来ない時期にも、結核治療中の喀痰は収集し、検査用のスライドは作成しています。

結核治療のスケジュールや方法、交通費を工面できない患者に対する工夫等も、上記ババトゴン町とほぼ同様です。25年勤務の結核コーディネーターの様々な工夫により、患者さんは皆、予定通りにRHUに来て治療やフォローアップを受けることが出来ています。

このRHUで問題になっているのは、台風後に数名の患者がマニラに行ってしまい、その後連絡がとれなくなってしまっている患者、プライベート病院や医院に勝手に転院してしまう患者です。この施設だけでなく、今回のプロジェクト対象地域であるレイテ州全域に言えることですが、プライベートの病院や医院で治療をすることは一種のステータス(治療費を払える人が通うことができる=お金持ちしか治療することが出来ない)となっており、この町では、RHUで治療を開始したにもかかわらず、途中で勝手にプライベート病院・医院に転院し、お金がなくなるとまたRHUに戻ってくる、という患者への対策に頭を悩ませています。
更に、臨床検査技師が毎週火曜日にしかこない(=喀痰検査は毎週火曜日にしか出来ない)ことで、これにより相当数の患者が検査、治療の機会の良いタイミングを失うことに繋がっています。

結核再燃患者はこの施設では治療せず、パロ町の治療センターに搬送しています。2012年に1件の再燃患者症例がありその際はセブの施設に転院させようとしましたが(当時、東ビサヤ地域にはまだ施設が無かったため)、結果再燃結核に対する治療ではなく、普通の結核治療を再度行っただけに終わりました。
その患者には子どもが5人おり、お子さん達にツベルクリン検査をするように勧めましたが、お金がないとのことで何の対応もされませんでした。しかしながら、「お金があっても、あの患者さんがRHUに治療に戻ってきたかどうかは微妙だわ」と結核コーディネーター。小児結核患者は2013年に2例で既に治療を完了しています。

結核患者に対する偏見は根強く残っている。助産師は担当の村で健康教育、アドボカシー、カウンセリングを行い、偏見を軽減する方向に働きかけています。しかしながら、コミュニティレベルでは、今なお自身が結核患者であることを隠しながら生活している患者さんたちがいるのです。

ちなみに、1989年、彼女が結核コーディネーターになった当時のカポオカン町の結核の状況はというと・・・@現在は1錠にまとめられている治療薬は、多剤であった、A結核に対する偏見が非常に強く、自身が結核に罹っているという事実を受け止めることが出来ない感じがいた、B患者数は現在よりも少ない、C結核というものに対する知識がなかった、そうです。

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(wku)
posted by resultsjp at 02:51| Comment(0) | フィリピン