2022年09月06日

超円安140円!続く物価高騰、即効性ある対策は為替介入とトービン税準備

  • 超円安要因は日米金利差を利用したヘッジファンド等投機筋の円売り攻撃
  • 日銀の大規模金融緩和と国家財政の立て直しの前に、為替介入とトービン税準備が必要

1、円安による物価上昇はこれからが本番

719日に放映されたBS-TBSの『報道1930』で元日本銀行理事の早川英男氏は次のように発言していました。「…物価が上がるのはこれからなんです。今までの物価上昇は原油高とか、小麦が上がったりの影響で、この最近の円安が物価に表れるのは夏から秋くらい。今の物価上昇は1ドル120円くらいの円安の分。その後の分はまだまだ全然反映していない。物価はこれからまだまだ上がる」(注1)。 

実際、帝国データバンクの調査によれば、「今年8月末までに計2万品目が値上げされ、10月は単月で最多の6532品目の値上げ計画が明らかになった。CPI(消費者物価指数)の上昇率は今秋に3%を超えるとの予想もある」(注2)とのことです。 

食料品値上げはもとより、電気代も東京電力では、13カ月連続の値上げで、標準的な家庭の1カ月当たりの料金は8月に比べて8円高くなり9,126円となります。これに加えてガス代も上がっていくでしょうから、今年の冬は厳しくなりそうです。


2、インフレは預金を減らし、税金を取られるのと同じ=拡大する格差

少々のインフレがあっても、連動して賃金や年金が上がっていけばよいのですが、日本の場合、そうはなっていませんので、生活レベルが実質的に低下しています。私たちのなけなしの預金も物価上昇分だけ価値が減少していきます。

一方、インフレで得するのは借金をしている側です。どれだけ物価が上がっても、返済する金額に変化はないので、借金の実質的な負担は物価上昇分だけ軽減されます。では国内で一番借金を背負っているのは誰かというと、1000兆円を超す負債を有する政府です。「つまり、インフレが進むと国民の預金から政府に所得が移転するので、これは国民の預金に税金をかけ、政府債務の返済に充てたことと同じになる」(注3)という訳です。

もっとも借金を負っているものが得をするとしても、最終的に破綻する可能性もあるわけで、救済されるわけではありません。今回のインフレで最も得をするのは、ドル通貨とドル建て有価証券を持っている大企業や富裕層でしょう。彼らは為替差益でただ寝ていても儲けを得ることができるのです。かくて、物価高に喘ぐ一般勤労者・年金生活者や価格の転嫁できない中小企業と大企業や富裕層との格差が一層拡大していくことになります。 


3、金利を上げることができない日銀、第2波の国債攻撃の標的に

インフレを抑制する手段の一つは中央銀行(日銀)による金利アップ政策(金融引き締め)です。日本のインフレの最大の要因は円安による輸入品価格の上昇にあり、そしてこの円安は米日の金利差を要因としているのですから、二重の意味で日銀は利上げが待ったなしの政策であるはずです。ところが、日銀・黒田総裁は大規模金融緩和を続けると言明し、10年もの国債金利まで0〜0.25%に強引に抑え込んでいます(YCC/イールド・カーブ・コントロール)。

インフレに備え主要国が軒並み政策金利を上げているのに、なぜひとり日本だけ金融緩和を続けているのでしょうか。それは、次の二つの理由によります。1)日銀の保有する莫大な国債の価格が下落し、日銀が債務超過になる恐れ(日銀当座預金への利払いを含む)、2)国の一般会計歳出での公債利払いが飛躍的に増加し満足に予算がたてられなくなる恐れ、があるからです。

要するに日本政府は莫大な借金(国債発行)による予算で国を運営し、その国債を実質的に日銀に買わせ、かくて政府も日銀も借金で首が回らなくなる状況になりつつあるのです。YCC政策などはほとんど金融政策の禁じ手であり、なのにそれを使わざるを得ない事態となっています。

8月末のジャクソンホール会議でパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が「(インフレを抑え込むための金融引き締めを)やり遂げるまでやり続けなければならない」と講演。これを受けて外国為替市場では円相場は24年ぶりの安値である1ドル=140円台に急落することになりました。これで息を吹き返したのが、日本の国債価格下落に賭けるヘッジファンドの国債売りが再びはじまりました。かくして外国為替市場では投機筋による二重の円安攻撃が行われることになりました。

4、提案:円安攻撃を食い止めるために為替介入とトービン税を

米国の金融引き締めはいつまで続きそうかと言うと、「FRB高官には2023年いっぱいは利下げに転じないとの見方が出ている」とのことです。なのに、日銀がこのまま金融緩和を続けることになれば、ますます金利差が広がり、日本のインフレがいっそう高じてきます。

では、この円安を食い止めるにはどうすればよいか? 短期的には円買いドル売りの為替介入を行うことです。実際、日本政府は「9798年には130円台でも円買い介入に動いていた」こともあり、「急激な円安が市場を混乱させるようなことになれば、当局の警戒モードも高まり、円買い介入に踏み切る可能性も出てきそうだ」と日経新聞は報じています(注4)。しかし、日本政府のドル保有(外為特会)にも限度があることから、ヘッジファンドが束になって一斉に円売りに出ると負けることも考えられます(1992年の英ポンド売りや1997年のタイ・バーツ売りのように)。

そこでトービン税(外国為替取引への課税)の出番で、上記為替介入とトービン税との合わせ技でヘッジファンド等の投機筋と対決することです。まず日本当局はトービン税導入を研究しはじめたというアナウンスメントを公表することです。中国の人民銀行が行った手です(注5)。最初は10ベーシスポイント(0.1%)課税という高い税率を公表することです。そして実際為替取引税を導入する場合には、取引当事者の税を取られているとの意識を極力避けるための税率0.0001%(1億円の取引に対し100円の税収)で制度設計することです。

このような超々税率でも、年間1000億円(東京市場のみ)〜3000億円(グローバル市場)の税収になります。これを感染症パンデミック対策資金として連帯税的要素として使用することが可能です。

この間再三述べてきましたが、為替相場を決めるのは、@貿易、A金利、B投機という3要素です。@とAは経済のファンダメンタルズによるものですから、これを改善するには時間がかかります。が、Bは短期に対処しなければなりませんし、また政府が本格的に取り組めば対処することができます。要するに、国家はヘッジファンド等投機筋に付け込まれるような金融・財政政策をとってはならないということです。前者は大規模金融緩和であり、後者はもっぱら借金による財政運営です。


(注1)【報道1930】ヘッジファンドトップが語る「日銀は必ず負ける」

https://youtu.be/7Ma9X0YT4V4

(注2)【日経新聞】円安でも動けぬ黒田、覚悟のパウエル 金融政策総点検  日米中銀、異次元の難局(上)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB239SQ023082022000000/

(注3)【現代B】岸田首相もやっと危機感…政府の「インフレへの鈍感さ」が、これから引き起こすこと

https://gendai.media/articles/-/98963

(注4)【日経新聞】円安はどこまで進む? 政策の日米差鮮明、節目は147円か

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB020VY0S2A900C2000000/

(注5)【ロイター】為替投機対策でのトービン税導入、研究段階=中国人民銀副総裁

https://www.reuters.com/article/g20-china-idJPKCN0WN09P

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)

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2022年09月03日

金子 宏先生ご逝去、国際人道税を提唱した先駆者

金子先生スピーチ(2019年2月).JPG

日本の租税法のオーソリティーであり、かつ税制に基づく国際援助資金調達のスキームである国際人道税を提唱した金子 宏・東京大名誉教授が去る8月23日にご逝去されました。91歳でした。報道は「課税要件の理論的解明という課題に取り組み、租税法学の基礎を築いた。2018年に文化勲章受章」(共同)と述べています。

国際人道税ですが、広く知られるようになったのは200683日付日本経済新聞の経済教室に「人道支援の税制創設を 国際運輸に定率で」と題した先生の論考が載ったことです(すでに1998年に発表済み)。私たちは先生の提唱する人道税は航空券連帯税そのものではないかと驚き、早速連絡を取らせてもらい、翌年先生の講演会を開催しました。以降、国際連帯税の節々のイベント等に先生に出席していただき、先生の熱い人道税=連帯税への想いを語っていただきました。

金子先生は租税法のオーソリティーであり、従って学のみならず政官財に余多の門下生を送り出しています。しかし、先生のヒューマニティ溢れる国際人道税等の理論を引き継ぐ人士が出ていないことを本当に残念に思います(ただ解説する先生はいますが)。

ともあれ、国際人道(連帯)税を学問的に裏付けし、さらに推進しようとした先生の功績は大なるものがあります。日本ではまだ実現していませんが、先生のご意志を受け継ぎ頑張っていきたいと思います。以下、3年前の金子先生のスピーチを送ります。

【金子宏先生のスピーチ】

2019225日「国際連帯税アドバイザリーチーム」立ち上げ会合に、昨年文化勲章を受章された金子宏東京大学名誉教授も駆けつけてくださり、参加者を激励しました(会場:日本リザルツ会議室)

ただ今ご紹介いただきました、金子でございます。予定の時間を過ぎて、遅れて参上いたしまして、大変失礼いたしました。ここに、先輩であり長年の友人である津島雄二さん(注:元自民党税調会長で国際連帯税創設を求める議員連盟の初代会長)がご一緒してくれました。昨年文化勲章を拝受いたしまして、非常に光栄なことと存じております。これは、租税法という法律、これは他の分野と比べると新しい分野でございますけれども、その分野の理論と体系を構築したということで、拝受いたしました。本当に光栄なことと存じております。

それから、今ご紹介がありました、国際連帯税に関しまして、私は国際人道税と呼んでおりますが、どちらも国際航空運賃に課税をするという点では共通でございます。1998年に日本の雑誌に国際人道税という名称で国際航空運賃に課税したらどうかという提案を含んだエッセイを書きました。そして、たまたま日本に来ておられたハーバード大学のロースクールのオールドマン先生に、こういうものを書いたと話しました。すると、国際航空運賃に課税するという提案は、まだ誰もしていないから、是非とも英語で発表するようにということで、早速アメリカのインターナショナル・タクゼーションに関する雑誌に掲載する手はずを整えてくださいました。私の拙い英語で英訳しましたが、オールドマン先生の弟子で、私の長年の知り合いのラムザイヤー教授が私の英語を見て、必要な訂正を施してくれて、ラムザイヤーさんが翻訳したくれたところ、見違えるほど内容が良くなりました。そして、それがアメリカの雑誌に載りました。

2006年でしたか、2000年代に入ってから、フランスの旧植民地の色々な人道問題を援助しているNGOを通じて、シラクさん(注:当時のジャック・シラク仏大統領)に対して強力に国際人道税を導入して、国際航空運賃に課税をすべきだと、そしてフランスの旧植民地においてマラリア根絶などの費用に充てる為に導入したらどうかと働きかけをしたようであります。シラクさんは最初反対しておりましたけれども、説得の結果導入されたようでありますが、フランスで導入されたものが、フランスの旧植民地に使うということで、UNICEFなど国際組織に寄付をするという私の提案とは違い、フランス政府の手で使うということになったようです。その後、いくつかの国と連帯して、共同で色々な事業に使っているようであります(注:UNITAID・国際医薬品購入ファシリティという国際機関を設立し、途上国の感染症対策のための医薬品等の購入を行う)。

私は、国際航空運賃というのはどこの国も消費税をかけることができないという理由で、つまり国外の消費でありますから、消費税の対象にならないためどこの国も課税してこなかったのでありますけれども、色々な宗教対立とか人種間の紛争とか、それによって子ども達が悲惨な目に遭っているという状況に照らして、今までどこの国も課税できないとして課税してこなかった国際航空運賃に課税をして、その税収をUNICEFに寄付して、UNICEFの手で色々な国でひどい目に遭っている子ども達の救済に充てたらどうかと考えた訳であります。

いくつかの国で、シラクさんが採用した国際連帯税という制度を採用している訳ですけれども、先ほど申しましたように、私の提案とは徴収した国が使うのか、それを国際組織に寄付をして国際組織の手で色々な、例えば国境なき医師団とか、国際的な活躍をしている、経験のある組織にお金を出してそしてそれを子ども達の救済に充ててもらうのかという違いがあるわけでありますけれども、私は今の国際連帯税がやがて税収を各国が使うのではなく、国際組織に使ってもらうというようになっていくといいなと考えています。

ですから、国際連帯税と国際人道税は決して違うものではなくて、私が同種の租税が将来的には徐々に国際人道税に発展してゆくことを期待している訳であります。国際連帯税に反対するわけではなく、むしろその発展に少しでもお役に立つことができればというふうに思っている次第でございます。歳を取ってしまいましたけれども、できる限りでご協力をしていきたいと思っております。ちょっと長くなりましたけれども、以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。(大きな拍手)

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)


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2022年08月06日

東京市場での外国為替取引高が史上最高!通貨取引税があれば3兆円の税収!

為替取引.JPG

東京の外国為替市場で莫大な投機マネーによる取引が行われています。その取引高は1日当り65兆円! とくに4月に入ってからヘッジファンドなどの円安攻撃が主導したようです。ところで、もし日本で為替取引税(通貨取引税)が実施されていれば、0.005%という超低率(1億円の取引に対し5000円の課税)であっても8160億円もの税収が上がります。さらに、ドル円取引はグローバルに行われており、東京市場でのシェアは20数%に過ぎません。これらにも同税が及ぶと総計3兆円もの税収となります。これはコロナ・パンデミック対策資金としても、また他の地球規模課題対策資金としても十分な税源となりうるのではないでしょうか。

●東京市場での外国為替取引高、史上最高の1日当り65兆円!

726東京外国為替市場委員会(日銀と民間金融機関で構成)は本年4月の東京市場での外国為替取引高は「1営業日」平均で4785億ドル(約65兆円)に上っていると発表(注1)。読売新聞によれば「2006年の調査開始以来、最高だった。資源高を背景に輸入企業による円売り・ドル買いが取引高を押し上げ、投機的な売買もあった」と報道しています。

国際決済銀行(BIS)は3年ごとにグローバル規模で外国為替取引高を調査していますが、上記数字はこの調査のうちの日本分(東京市場)集計のものです。前回の調査(20194月)を見ますと、3760億円(約51兆円)ですから、コロナ危機があったにもかかわらず、取引はナント!1000億ドル(約13兆円)も増えています(注2)。 

ところで、報道では取引高アップの要因として、貿易関連そして投機での増加からと説明しているようです。が、日本総合研究所の主席主任研究員の石川智久氏は次のように言っています。「外国為替取引高が過去最高になった…一番の理由は投機的な動きです。外国為替市場では、輸入や輸出といった実需よりも金利差などで動く投機筋の方が動かす金額が大きくなります」、と。ドル円相場は今年の3月ころまでは1ドル115円ほどで推移していましたが、4月からヘッジファンドなど投機筋の円売り攻勢が活発となって急速に円安が進み、一時130円を超える事態となり、そのことが4月1営業日に反映されたと言えます。

その後の経緯から言えば、円安はさらに進み、7月には1ドル140円に迫り、一転今度は8月に入り130円を割る寸前にまでになるという乱高下状況で(今また135円に急騰)、それだけ投機筋が激しく動いていると言えましょう。

●外国為替取引の80%程度は投機のための取引

そもそも外国為替取引は何のために行うのかと言いますと、円をドルに換えて輸入代価を支払ったり、外国に工場を作ったりするために行われますが、こうした実需に使われるのは実は総量の10%程度です。残りの90%程度は取引そのものから利益を得ようとする投機のために行われているのです。そのために何かイベントが起きると為替差益を狙っていっせいに投機マネーが動き、為替相場が極端に動いたりするのです。今回の超円安相場にあたり、やはり異常なくらい投機マネーが動いているということが、この4月の1営業日での取引高の記録によって分かります。

以前紹介した池田雄之輔氏の著書『円安シナリオの落とし穴』(日経プレミアシリーズ)によれば、「為替市場は、商品市況と並んで、もっとも『投機』の色彩が強い市場ということができる。…ヘッジファンドが78割、リアルマネーが2〜3割」と言っています(ここでのリアルマネーとは、長期保有を想定した投資信託や保険会社などの投資マネーのこと)。

ところが、このところの超円安に関しての金融系エコノミストや日経新聞などの基調からはすっぽり「投機」が抜け落ち、円安の要因をもっぱら貿易や金利の面から説明しています。これでは急速な円安や円高を説明することはできません。

●日本で通貨取引税が実施されていれば年間「8100億円+21300億円強」の税収に

2022年を通しての外国為替取引高が平均して1営業日当たり65兆円あるとし、そして日本で税率0.005%の通貨取引税(為替取引税)が実施されているとすれば、約8100億円の税収となります(65兆円×営業日250日×0.005%)。

ところで、税収はこれに限られません。というのは、ドル円はもとよりユーロ円、ポンド円取引等々は東京市場だけで行われているのではなくグローバルに行われていますので、ここらからの税収も考えられるからです。では、グローバル市場での取引と東京市場レベルでのドル円取引の割合はと言いますと、ざっくり75%対25%となります(注4)。すると、東京市場を除くグローバル市場での取引額は12504億ドル(約1701000億円)となります。 

これらにも0.005%を課税すると21300億円の税収となります(1701000億円×250日×0.005%)。しかし、東京市場外のドル円取引に課税できるのかという疑問が出ますが、それは日本政府が決めて制度設計すればよいことであり、また取引に円がからむことにより取引の足跡を補足することは可能であり、従って課税することができます。 

このように東京市場とグローバル市場での課税により約29000億円程度の税収が得られますが、グルーバル市場では他にユーロ円、ポンド円等々の取引がありますので、こちらにも課税することになりますので、(課税によって税収が少々減少しても)税収が3兆円を超えることになるでしょう。

●林芳正外務大臣は国際会議の場で国際連帯税の必要性をぜひ訴えてください

とはいえ、通貨取引税実施の壁は厚く、同税の元祖ともいえるトービン税が提唱されてからちょうど半世紀たった今年に至るまで(注4)、主要国で実施された国はひとつもなく、わずかブラジルやトルコで変則的な形で実施されているにすぎません。世界で同時に課税しないと、課税国から非課税国に金融機関が、従って為替市場が移転してしまうという神話のためです。

例えば、日本のA銀行が課税を嫌ってすべてシンガポールにディーリングルームを移転させたとしても(実際はありえないと思いますが)、円を扱いかつ日本国籍を有する限り、課税から免れることはできません。シンガポールにあるA銀行支店が100万円で米国のB銀行の1万ドルを買うとしても、日銀の中のA銀行の預金(当座預金)から100万円が払われることになりますから、足跡は残り課税が可能となります。

もし日本一国でも実施するとすれば、当面投機筋が税金を払っていると認識できないくらいの超低税率で課すことからはじめてもよいと思います。金融関係者に聞くと、分岐点は0.01%と答える人と0.001%と答える人がいます。0.005%課税は前者に依拠したものですが、最初は0.0005%から始めてよいでしょう。それでも3000億円の税収となります。

いずれにせよコロナ・パンデミックのような地球規模課題に対しては一国ではなく、G7やG20などの主要国が共通税率をもっていっせいに国際連帯税としての通貨取引税を実施することが望ましいことは言うまでもありません。昨年10OECDG20が140ヵ国を巻き込み「デジタル課税(新グローバル法人税)と世界共通最低税率」を決めたように。

しかし、問題はデジタル課税とは違ってどこの政治的リーダーも地球規模課題のための共同資金創出を言い出さないことです。そこで、私たちは我が国の政治リーダーである林芳正外務大臣に(元国際連帯税創設を求める議員連盟・会長)対して、次のように、外務省への23年度税制改正要望を提出しています。

林外務大臣におかれては、G7やG20の外相会合において、また国連総会など国際会議の場において、SDGs資金ギャップについて警鐘を鳴らすとともに、国際連帯税を共同して実施することを訴えていただきたいこと 

(注1)【日経新聞】東京外為市場、4月の取引高は7.7%増 過去最高を更新

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB266I00W2A720C2000000/ 

(注2)【日銀】主要市場の1営業日平均取引高(グローバル分集計結果)

https://www.boj.or.jp/statistics/bis/deri/data/deri1904.pdf

(注3)【ヤフーニュース】https://news.yahoo.co.jp/pickup/6433749 

(注42022年のグローバル市場でのドル円取引高は分からないので、2019年でのグローバル市場のうちの東京市場の割合は約24%、2013年では約20%程度。ここから類推しての割合となる。

(注5)ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・トービン(イェール大学教授)が1972年に提唱。投機目的の短期的な資本取引を抑制するため、外国為替取引に1%程度の税を課するというアイデア。

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)
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2022年08月01日

23年度税制改正:外務省は「国際連帯税」要望を復活させ資金調達を図れ!

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2012年10月「国際シンポジウム:金融取引税・国際連帯税は世界を救うか?〜革新的資金メカニズムを巡る世界のリーダーと市民社会との対話〜」(青山学院大学国際会議場)で発言する林芳正・国際連帯税創設を求める議員連盟会長/参議院議員(当時)

グローバル連帯税フォーラムは去る7月25日外務省に「23年度税制改正要望で『国際連帯税』要望を復活させることの要請書」を提出しました。要請書の要旨は次の通りです。

・SDGs達成のための途上国での資金ギャップがコロナ危機が進行する中でそれが4.2兆ドルへと拡大していること、

・このギャップを埋めるには1800億ドル程度のODA(政府開発援助)ではとうてい間に合わず、OECD(経済協力開発機構)は約390兆ドルの金融資産を有する民間資金の動員・利用を提案。しかし、民間資金の投融資には限界があることから、国際連帯税など革新的資金調達が望まれること、

・コロナ禍にあっても資産や利潤を増やしている金融セクター、ITなど情報技術セクター等グローバル化で受益している経済セクターへの課税を実施すること、

・日本政府は国際連帯税の国内実施と国際社会での共同実施に向け努力すべきこと


2023年度税制改正要望で「国際連帯税」要望を復活させることの要請書

外務大臣 林 芳正 様

             グローバル連帯税フォーラム

       代表理事 金子 文夫

田中 徹二


日頃からの世界と日本のための外交平和努力に敬意を表します。

さて、コロナ禍やウクライナ戦争という厳しい情勢にありますが、次年度税制改正要望を提出する時期となりました。ご承知のように、国際連帯税につきましては、2010年度より外務省から要望が提出され、それが2020年度まで10年間連続して続けられました。ところが、2021年度、2022年度と要望提出を断念し、今日に至っています。

その断念の理由は、外務省が20197月に「SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会」を設置し、翌年7月に提出された懇談会の「最終論点整理」(以下、「整理」と略)に沿ったからと思われます。つまり、「コロナ禍で日本経済全体が大きな打撃を受けているので課税による資金調達方式は現実的ではない」というのが整理での提言だったからです。

しかし、こうした厳しい経済情勢下にあっても、日本を含む世界ではITや金融というグローバル経済セクターは多大な利益を上げていましたし、日本経済も3年目にしてようやく復活の兆しが出てきました。また、整理では課税についてすべて反対しているわけではありませんでした。実際、航空券税については「国際航空事業が正常化した段階で再考すべきではないか」と提言しております。航空事業も正常化に向かいつつあるのが現状です。従いまして、外務省としてはSDGs達成のため課税による資金調達要望を復活させるべきと考えます。

一方、林外務大臣は先の国会において「SDGs達成のための資金不足を埋めるためには革新的資金調達は重要と考え、外務省としては引き続き適切な資金調達の在り方を検討してまいりたい」と発言しています(5月19日参議院外交防衛委員会)。ここでの革新的資金調達とは国際連帯税を含む新たな資金調達の在り方と言えるでしょう。

林外務大臣はさらに「SDGs達成のためには年間2.5兆ドル不足と言われている。コロナ禍でそのギャップはさらに拡大しているとの推計もなされている」と発言していますが、今やそのギャップはOECDの推計によれば4.2兆ドルへと拡大しています。一方、世界のODA総額は1,789億ドル(2021年)ですから、とうていODAでこのギャップを埋めることはできません。

そこで期待されるのは民間資金の利用、動員です。今日SDGs理念の世界的な浸透もあり、ESG投資やインパクト投資、グリーンボンドなど地球規模課題に向けての民間資金の投融資が盛んになってきました。このことは歓迎すべきことですが、それが民間資金という性格上どうしてもリターンが不可欠であることから、最も必要としている貧困国やセクターに届いておらず、また投資分野もエネルギーなど気候変動分野に偏るという傾向があります。これらのことからも、第二の公的資金となりうる革新的資金メカニズムとしての国際連帯税の実施、拡大が望まれます。

以上のことから、国際連帯税に関し、下記の5項目を要望しますので、ご検討くださることをお願い致します。

1.       2023年度(令和5年度)税制改正要望に新設税として「国際連帯税(国際貢献税)」を要望すること(注1)

2.       外国為替取引に課税する通貨取引税につき、外務省が事務局となり政府内に省庁横断的な会議体を設置するとともに、その下に専門家・有識者及びNGOや市民団体の代表者等からなる『有識者検討委員会(仮称)』を設置すること(注2)

3.       航空券税につき、航空事業が正常化された段階で入国税として実施すること(注3)

4.       デジタル課税につき、消費地での新グローバル課税ルールと世界共通最低税率をG20財務相会合で取極めたが、この取極めによる新たな税収のX%を国際連帯基金(仮称)として徴収すること(注4)

5.       林外務大臣におかれては、G7やG20の外相会合において、また国連総会など国際会議の場において、SDGs資金ギャップについて警鐘を鳴らすとともに、国際連帯税を共同して実施することを訴えていただきたいこと

以上

2022年7月26日

(注1)国境を超える経済主体に広く薄く課税するという税制の主旨から、国際連帯税のリストとしては、@通貨取引税、A航空券税、Bデジタル課税等、が挙げられる。

(注2

@     金融セクターはコロナ禍にもかかわらず利益を増殖させ、為替取引総額が増大していること、

副次的には今日の超円安等を招いている投機マネーの抑制にも繋がる。

A     先の有識者懇談会でも、通貨取引税に関し検討されたが、十分に検討されないままに報告が出されている。

B     もし日本で導入ということになれば、先進国では初めてのことになり(中進国のブラジルやトルコで実施中)、それだけ国際的に注目を浴びることから、有識者検討会にノーベル賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏や開発経済の第一人者であるジェフリー・サックス コロンビア大学教授など世界の著名人からの助言も有効である。

(注3)既に出国税として、国際観光旅客税(利用者一律1,000円)が実施されているので、入国税として実施する。ちなみに、米国では国際通行税として出入国の都度$17.5(約2,280円)徴収されている。                 

(注4)日本政府は23年度税制改正でこの取極めへの対応を検討することになっている。なお、この新しい国際ルールによる税収については、カリフォルニア大学バークレー校のガブリエル・ズックマン准教授らが試算している。

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)


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2022年06月15日

円安危機水準に、高笑いの国際投機筋、今こそ通貨取引税が必要です

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昨日(614日)の日経新聞朝刊の一面トップは「円安 98年危機以来の水準 一時135円台前半」との大見出し(注1)。記事は「…金融不安で『日本売り』に見舞われていた1998年以来、約24年ぶりの円安・ドル高水準に逆戻りした」と続きます。


24年ぶりの円安、異次元の金融緩和による破綻の着地点見えず


1998年と言えば、日長銀や日債銀が破綻した年ですが(前年には拓殖銀行、山一証券が破綻)、この金融危機の処置を間違えれば日本発の「世界金融危機の引き金になる」のではないかという恐怖が当時の関係者にはあったようです。大蔵省(当時)の担当官であった故志賀櫻氏が著書『タックス・ヘイブン』(岩波新書)で顛末の一端を描いています。


80年代のバブル経済の最終的破綻が同年に現れ、日本売りともいえる円安に見舞われました。今度の超円安は異次元の金融緩和による破綻の現れとも言えますが、いまだ最終着地点を見出すことができません。まだまだ円安相場が続きそうだからです。


●為替相場を決める3要素:ファンダメンタルズと投機筋


ところで、為替相場を決めるのは、次の3要素です。@貿易、A金利差、Bヘッジファンドなど投機筋(池田雄之輔『円安シナリオの落とし穴』日経プレミアシリーズ (注2))です。この間マスコミではもっぱら@とAでしか円安を説明していません。ところが、この2か月ほどで20円も急激に円が下落した理由としては、投機筋による仕掛けしか考えられません。


というのは、物価や経済状況からみた円の理論値は110円前後という試算が出されています(注3)。これは経済のファンダメンタルズである@Aで見ると110円前後になる、ということを意味しているのではないでしょうか。だが実勢は135円前後なので、それを説明するには投機マネーの存在ということになります。では、投機マネーはどれだけ動いたのかと言いますと、上記池田本から類推するに数十兆円規模(!)のお金が動いていると思われます。


●投機筋が狙い撃ち「サンキュー、ミスタークロダ」


ところが、ようやく一昨日(13日)の日経電子版に投機筋を分析した記事が載りました(注4)。その手法は、低金利通貨(円)を売って、高金利通貨(ドル)を買う「キャリー取引」です。この取引は円高になってしまうと損失を出しますが、日銀・黒田総裁が円安を確約したのも同然の政策を取っているので、盛んに行われるようになっているのです。このほかに、円安が進めば進むほど利益が上がる空売りを仕掛けているヘッジファンド等も当然存在するでしょう。


米国はじめ欧州でもインフレ対策のために金利アップを実施する、またはしようとする中で、一人日本だけが金融緩和を続けると宣言し、「円安は日本経済にとってプラスだ」などと誓ったので、円安を回避できなくなったのです。かくして「投機筋が安心して円売りを仕掛けられている」状況となり、「インフレを巡り世界の市場が動揺に包まれる中で、円を売る取引が利益を生む確実性の高いトレードと捉えられており、投機筋に狙い撃ちにされている格好だ」と記事は述べています。


かくて「…国際通貨投機筋が円安で大もうけの話は市場内に拡散され、…『日銀は永遠のハト派』『サンキュー、ミスタークロダ』との声」(414日付日経電子版・コラム「豊島逸夫の金のつぶやき」)が為替市場であふれているようです。


●生活難を招く円安をどう止めるか? 通貨取引税が有効 G7サミットでも議論を


この円安の結果、大いに困るのは物価高に喘ぐ私たち庶民です。この間生鮮食料品は12.2%のアップ、電気代は21%アップというように、家計にとって不可欠なものの価格が高騰しています。一方4月の実質賃金は 1.2%減少しており、また年金もこの4月より目減り傾向となりました。


何よりもこの円安を食い止めなければなりませんが、基本的には日銀・政府の異次元金融緩和政策(量的緩和やマイナス金利など)を修正し、正常化していくことでしょう。こうした基本政策のレールの上に、短期的、中期的取り組みを進めることです。


超短期的には「円買いドル売り」の為替介入を行うことでしょう。しかし、これだけでは投機筋に打ち勝てませんので、通貨取引税検討と併せてアナウンスすることです。20163月中国の人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は突如、トービン税(通貨取引税)導入を検討すると公表し、世界を驚かせました。当時人民元の下落圧力が強まり投機筋の仕掛けに歯止めをかけるべく当局が為替介入を行ったのですが、その分外貨準備金が相当減少してしまい、これを防ごうとしてのトービン税検討というアナウンスメントでした。 


よく通貨取引税導入は一国では無理だと言われていますが、超々低率の税率を課すのであれば−−例えば税率0.0005%(1億円の取引に500円の課税)−−金融関係者の反対も一定避けることができます(投機筋が20兆円の円売りを行えば1億円の税収に)。重要なのは、政府が投機筋の仕掛けは許さないという強い意志を示すことです。


来年は日本が議長国となるG7サミットが広島で開催されます。日本政府としては円安阻止のため投機マネーを抑制する通貨取引税とは別に、コロナ・パンデミックや飢餓対策のための国際連帯税としての通貨取引税の共同実施を呼びかけるべきです。コロナ禍やウクライナ戦争による食料危機=飢餓人口の増加という事態に対し、途上国・貧困国への資金支援はいくらあっても足りないからです。


(注1)【日経】円安、98年危機以来の一時135円台前半 競争力低下映す


(注2)【日経プレミア】円安シナリオの落とし穴


(注3)【日経】円下落 理論値より大幅安


(注4)【日経】円、一時『日本売り』以来の安値 投機筋狙い撃ち

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム・日本リザルツ理事)



posted by resultsjp at 11:04| Comment(1) | 国際連帯税の推進