2022年06月10日

国連事務総長「前例のない飢餓と貧困の波を引き起こす恐れ」=ウクライナ戦争

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グテーレス事務総長


ちょうど世界の貧困根絶でホワイトバンド運動が日本でも流行っていた2005年頃、11.25ドル未満で生活する「極度の貧困」につき、「毎日お腹をすかせて床に就く状態」と表現した記憶があります。お腹がすいても食べるものがなく、それが高じて栄養不良になることが「飢餓状況」です。この20年ほど途上国の経済発展やミレニアム開発目標(MDGs)や持続可能な開発目標(SDGs)による運動もあり、「極度の貧困」「飢餓」人口が確実に減少してきました。ところが、コロナ・パンデミックによりその傾向がすっかり逆転してしまいました。


<世界の飢餓人口推移>


2015年(約7.9億人)⇒2019年(約6.5億人)⇒2020年(約7.2-8.1億人)


そして本年2月ロシアによるウクライナ侵略(戦争)は、ウクライナやロシアが小麦など穀物の最大の輸出国であり、これが滞っていることにから、「94カ国の16億人が影響を受ける」ことになっているとのことです(注1)。このまま戦争が長引けば、国連事務総長が言うように「前例のない飢餓と貧困の波を引き起こす」ことになりそうで大変懸念されます。16億人と言えば、地球人口の5人に1人です。


実際、各国は食料危機から自国民を守るために食料等の輸出禁止を打ち出す国が相次いでおり、それが20か国に及んでいるとのこと(注2)。世界でも最大級の穀物・食料輸入国である我が国にとっても、原油高と円安と相俟ってあらゆる物価の値上がりが行われています。賃金上がらず、年金切り下げですから、私たちの生活も大変厳しいものになりつつあります。


まず世界と我が国の食料危機を止めるためにロシアのウクライナからの撤退と停戦を1日も早く実現させることです。我が国がこのたび国連安全保障理事会の非常任理事国に選出されたのですから、外交力を発揮してもらいたいものです。


◎以下、食料危機対策や途上国支援、国内財政立て直しのための施策を考えてみます。


1)穀物や原油先物市場に流れ込んでいる投機マネーを抑制するために(市場参加の)証拠金の引き上げや投資額(建玉)の制限を行うこと


2)円安を抑制すると同時に(飢餓や医療・保健対策のために)途上国支援を行うため、外国為替取引税(通貨取引税)を国際連帯税として実施すること


3)国内財政を立て直すために金融所得課税の増税と金融資産課税の新設を行うこと


(注1)


【共同通信】黒海封鎖は「16億人に影響」 国連報告書、食料危機に懸念表明


ロシア軍が黒海を封鎖し、ウクライナ産の小麦など穀物の輸出が滞っている問題で、国連は8日、報告書を公表し「穀物価格の上昇など、94カ国の16億人が影響を受けている」と指摘した。グテレス事務総長は「前例のない飢餓と貧困の波を引き起こす恐れがある」と強い懸念を表明した。


…中略


ロシアの侵攻以降、黒海沿岸の港からの輸出が大幅に停滞し、世界的な食料の供給不安を招いている。(共同)


TBS】ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 「世界で16億人が影響」と国連発表(動画あり)


(注2)


【日経】食料輸出規制、20カ国に 侵攻が自国優先に拍車

(報告:田中徹二・国際連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)
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2022年06月03日

時代認識を考える>コロナと戦争で激変した世界、危機と脅威  

グローバル連帯税フォーラムの第12回定期総会が、来る625日に開催されます。総会議案書の作成に当たり、時代認識について考えてみたいと思います。

◎人類に対する脅威的事態の発生:コロナ・パンデミックとウクライナ戦争(核)

・この23年の世界の最大の出来事:新型コロナウイルスによるパンデミック(感染者5億人を超える)とウクライナ戦争(ロシアの国連憲章や国際条約破っての侵略)

・コロナはもとより、プーチン大統領の核兵器使用宣言(→核による第3次世界大戦の恐れ)によって人類に対する脅威的事態を呼び起こし、世界の様相も激変。

◎飢餓3億人、難民・避難民1億人>20年間の世界の貧困改善傾向が逆転

・国連WFP(世界食料計画):現在世界では81100万人が慢性の飢餓、過去最大の27600万人が餓死の瀬戸際に。さらに今年中に2000万人増加と予測。

ウクライナとロシアは世界の穀物輸出の約3割。戦争の結果、食料危機が長期化する恐れ。

UNHCR(国連難民高等弁務官):ウクライナ難民600万人はじめ難民・避難民が急増、史上初の1億人超え。

 ⇒グローバル化による経済成長もあってこの20年間貧困・飢餓状況は改善されてきたが、それが逆転し悪化傾向に。 

◎グローバル化への幻想と非民主主義国家の増加

・幻想:グローバル化によって途上国が経済成長し豊かになれば、「民主主義が広がっていくはずだ」。しかし、現実は「格差の拡大による先進国、発展途上国を問わない社会の分断で、民主主義に対する疑念をもたらし…むしろ中国主導の権威主義が広がっている」(以上、514日付日経新聞コラム「大機小機」)。

・スウェーデンのヨーテボリ大学V-Dem研究所の「民主主義報告書」:

  自由民主主義体制 32ヵ国(世界人口の14%)← 2010年には41ヵ国だった

  密室型独裁体制 87ヵ国(世界人口の68%)

  選挙独裁体制 60ヵ国(世界人口の19%)  ―以上、SWIswissinfo.ch2153日)より

 ⇒グローバル化は金融化と市場原理主義の下に進められ、その結果先進国でも中間層が先細りとなり政治的民主主義も大きく後退。コロナによって、世界的にSDGs指標の貧困や格差が目に見えて悪化。 

◎国際連帯税による二重の役割:SDGs資金調達と投機抑制

SDGs達成のための資金ギャップ2.5兆ドルだったのが、コロナ禍で4.2兆ドルに拡大。世界のODA総額は1789億ドル(2021年)、とうてい間に合わず

 ⇒OECD「世界の金融資産378.9兆ドル、その1.1%で資金ギャップは解決!」

・金融資産動員の第一歩は、外国為替取引への課税。併せて、巨大IT企業等グローバル企業への課税。これらを国際連帯税としてグローバルに実施。

 ⇒為替取引課税は同時に投機マネーを抑制する機能も(原油・穀物市場も投機マネーが流入し、価格高騰を演出)。

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)


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2022年05月24日

参院外交防衛委で国際連帯税質問(井上議員)>外相「革新的資金調達は重要と認識」

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報告が遅れましたが、今月19日の参院外交防衛委員会で共産党の井上哲士議員が、国際連帯税について質問してくれました。質疑の要点を述べます。

※全発言は以下のURLから、5/19外交防衛委をクリック(1:41:40あたりから)

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php 

★井上:政府はSDGs推進のために革新的資金調達を挙げているが、それはどうしてか?

☆外相SDGs達成のためには年間2.5兆ドル不足と言われている。コロナ禍でそのギャップはさらに拡大しているとの推計もなされている。この不足分を埋めていくには、従来の資金調達のみでは困難であることから、革新的資金調達は重要だと認識している。

★井上:国際連帯税について、2010年度から10年間税制改正要望をしてきた。その経過の上に「SDGs達成のための新たな資金を考える有識者懇談会」が設置され(実施に向けての)期待が大いに高まった。が、懇談会ではコロナ禍で日本経済が打撃を受けているからと言って新税を見送ることにしてしまった。逆であって、コロナ禍を理由に革新的資金調達をやめたら、ますます資金不足になる。国際連帯税も先のデジタル課税のようにコロナ禍だからこそ必要性は高まっていると考える。

☆外相10年間要望してきたが、制度の具体化に至らなかった。そこで懇談会の提言を踏まえ、令和3年度、4年度と要望提出を見送った。が、冒頭申した通りSDGs達成のための資金不足を埋めるためには革新的資金調達は重要と考え、外務省としては引き続き適切な資金調達の在り方を検討していきたい。

★井上20195月のODA特別委でTICADに向け全会一致で「SDGs達成に向け国際連帯税など革新的資金調達メカニズムを検討し、我が国が議長を務めるG20等の機会も活用し、議論を行えるように努めること」と決議した。ところが、懇談会はこうした経過を踏まえることなく逆の結論を出してしまった。今やコロナ禍において国際連帯税の必要性はいっそう高まっているのではないか。(外務省は)しっかり検討し税制改正要望に上げるべきだ。

☆外相:懇談会の提言はあくまで20年での判断だ。革新的資金調達の必要性、重要性は変わっていない。状況を踏まえながらしっかり検討していきたい。

★井上:国際連帯税を(元国際連帯税議員連盟会長として)よく知る外相であるので、リーダーシップを強く期待したい。

【田中徹二コメント】

この外相答弁は極めて重要です。今日コロナ禍はもとより、ロシアのウクライナ侵略という野蛮な行為もあり、世界的に難民が激増し(1億人を超える!)、食料危機も現実の問題となってきました。世界の弱者や貧困国への支援は急務です。しかしながら今までのような各国の(任意の)ODA拠出だけでは、上記林外務大臣も言うように限界です。ドナー国自身がコロナ禍やインフレで莫大な借金を抱えてしまい、まったく財政的に余裕がないからです。

そこで国際連帯税など革新的資金調達メカニズムが必要となってきます。危機下にあってもしっかりと儲けている金融関連企業から、巨大IT企業等のグローバル企業から、地球規模課題対策のための資金として国際連帯税を徴収し(グローバル化市場の使用料と言ってもよい)、ODAとともに上記課題に使用していくことが求められています。

グローバル連帯税フォーラムも23年度税制改正要望にあって再度国際連帯税新設を求めていきたいと思います。

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)

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2022年05月19日

オリガルヒ制裁にはタックスヘイブン対策と金融資本台帳が必要だ!

日本ではまったく報道されませんでしたが、420日に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会合に向け、「国際法人課税改革のための独立委員会(ICRICT)」が公開書簡を公開しました。ICRICTとはノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツや著書『21世紀の資本』のトマ・ピケティ、タックスヘイブン研究のガブリエル・ズックマンたちによって創設された公正なグローバル税制を求める非政府組織です。


そのICRICTが公表した書簡は「隠された富を対象としたグローバルな資産登録が必要な時だ」というもの。この書簡につき、419日付の英ガーディアン紙が「G20閣僚はオリガルヒへの取り締まりをタックスヘイブン対策に活用するよう促された」と題して報道していますので、紹介します。本文の前に、2,3の背景説明を行います。

 

(以下は、こちらでお読みください)

1、オリガルヒと「ロンドングラード」

2、タックスヘイブン対策、金融資産台帳作成が必須

3、日本ではまず預金通帳の名寄せを行い、マイナンバーとリンクさせ金融資産台帳作成へ

4、ガーディアン紙の報道


4月20日会合をボイコットする米国等の財務相.JPG

※写真は、4月20日のG20財務相・中央銀行総裁会議で、会議の一部をボイコットする米国やEUの財務相ら(カナダ政府/ AFP)

(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)
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2022年05月13日

報告:5.12国際保健への取り組み強化を求める緊急院内集会

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オミクロン株の登場で、コロナウイルスもエンデミック状態へと転化していくのではと期待されましたが、中国や北朝鮮でも感染拡大が見られ、パンデミック状況は収まりそうもありません。

そういう中で我が国をはじめ各国のグローバルヘルスについての資金的貢献や取り組みを強化してもらうため、昨日(513日)参議院議員会館会議室において、『コロナ時代のグローバル・ヘルス(国際保健)への日本の取り組みに関する緊急院内集会』が超党派の国会議員とともに開催されました。主催は同集会実行委員会(注1)で、議員による呼びかけは7党派のみなさんから行われました(注2)。

◎集会プログラムと国際連帯税と資金調達に関する報告

集会は、議員呼びかけを代表して武見敬三参議院議員が行い、その後基調報告を國井修・GHITファンド(グローバルヘルス技術振興基金)最高経営責任者が行いました。國井さんは、高所得国と中・低所得国との桁違いともいえる医療格差の実態を明らかにしつつ、今日のグローバルヘルスの課題について述べました(詳細は後日報告)。参加した国会議員との質疑も活発に行われました。

その後、市民社会から3人、政府から2人がコメントを寄せました(注3)。私(田中)も『グロ-バルヘルスと資金調達――方法論としての国際連帯税』と題して報告を行いました。その骨子は次のようなものです。

◎国際連帯税報告の骨子

田中報告のパワーポイント資料はこちらを参照願います。

1)これまでSDGs達成のための資金ギャップは年間2.5兆ドルと言われてきたが、コロナ禍の発生でそれが4.2兆ドルと拡大した(OECD2021)。保健に限れば1兆ドル。

2)一方、公的な開発援助資金ODAはトータルで1789億ドルしかなく、保健すら賄えず。それでOECDは民間資金である金融資産378.9兆ドルに着目し、その1.1%を動員できればギャップは解消すると提言。

3)その民間資金(金融資産)を動員する方法として、@投融資によるやり方、A税制によるやり方という2つ。OECDは前者を提言しているが、私たちは後者の国際連帯税という方法を提案する。

4)国際連帯税の2つのスキーム。@新多国籍企業税、A外国為替(通貨)取引税だ。何よりも政治リーダーが国際会合で主張し、専門家をまきこみつつ、市民=世論がこれを支えること。そうすれば国際共同スキームとして、兆円単位の援助資金を創出することができる。

(注1)

参加団体(50音順):グローバル連帯税フォーラム、新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会、アジア太平洋資料センター(PARC)、アフリカ日本協議会、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、日本リザルツ

(注2)

自由民主党  衛藤征士郎 衆議院議員、武見 敬三 参議院議員

立憲民主党  西村智奈美 衆議院議員、田島麻衣子 参議院議員

公 明 党  古屋 範子 衆議院議員

日本維新の会 青柳 仁士 衆議院議員

国民民主党  古川 元久 衆議院議員

日本共産党  井上 哲士 参議院議員

社会民主党  福島 瑞穂 参議院議員

(注3)

田中徹二:グローバル連帯税フォーラム(開発資金等)

堀江由美子:セーブザチルドレンジャパン(保健システム等)

金杉詩子:国境なき医師団(公平な医薬品アクセス等)

赤堀 毅:外務省地球規模課題審議官

三村 淳:財務省国際局長


(報告:田中徹二・グローバル連帯税フォーラム/日本リザルツ理事)

posted by resultsjp at 20:27| Comment(2) | 国際連帯税の推進