2023年03月21日

続報:岸田総理のインド訪問(スピーチを紐解く編)

岸田総理大臣がインドを訪問していました。


モディ首相との会談はこちらを参照:

http://resultsjp.sblo.jp/article/190243051.html


20日、岸田総理はインド世界問題評議会で演説を行い、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現に向けた新たな推進計画を表明しました。そして、グローバルサウスと呼ばれる途上国のインフラ整備などを支えるため、日本が2030年までに官民で750億ドル(およそ98000億円)以上を投じると発表しました。


政策スピーチ全文はこちらを参照:

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0320speech.html

外務省のサイトはこちらを参照:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pc/page1_001544.html


岸田総理は自身のスピーチの中で、FOIP協力の新たな「4つの柱」を示しました。それが@絵平和の原則と繁栄のルール、Aインド太平洋流の課題対処、B多層的な連結性、C「海」から「空」へ拡がる安全保障・安全利用の取組です。その上で、気候変動、食料安保、国際保健、サイバーセキュリティ等の幅広い分野における現実的かつ実践的な協力を加えるなどして、FOIP協力を拡充していくことを説明しました。


日本リザルツがアドボカシーを続けている開発協力大綱の改定についても、言及がありました。

ODAの戦略的活用によって外交力を強化するとした上で 「オファー型」の協力や「民間資金動員型」無償資金協力の導入を打ち出したほか、JBIC(国際協力銀行)法の改正を進めることを表明しました。


JBIC法の改正については、日本リザルツもこちらのブログで取り上げています。

http://resultsjp.sblo.jp/article/190175734.html


全文を見てみると経済安全保障のための政策への言及が多く見られる印象を受けました。特に「海における法の支配の三原則」については、自身の政権下で「自衛隊と各国軍の共同訓練、RAA(円滑化協定)やACSA(物品役務相互提供協定)などの法的基盤の整備等を進めています」とした上で「新たに同志国の軍等に対する無償資金協力の枠組みも創設」したと明言しました。


これまで日本のODAは軍事目的に使用しない=非軍事原則の堅持が遵守されてきました。日本リザルツも、朝日新聞「私の視点」やDevexなどへ寄稿を行い、国内外に日本のODAについて提言をしてきました。


「私の視点」の寄稿に関するブログはこちらを参照:

http://resultsjp.sblo.jp/article/190153143.html

Devexの寄稿に関するブログはこちらを参照:

http://resultsjp.sblo.jp/article/190166889.html


今回のスピーチを踏まえ、大綱改定がどのようになるのか、引き続き注視していきたいと思います。

(ぽ)

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マラリア・ノーモア・ジャパンの皆さんがお越し下さいました

昨日3月20日、日本リザルツ東京オフィスにお姉さま方がお見えになられました。
Malaria No More Japan(マラリア・ノーモア・ジャパン)の長島美紀理事と、飯塚由美子事務局次長です。
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飯塚様は、先日の3月5日に開催されたGGG+フォーラムにもご参加して下さり、大変有難いご感想も頂きました。
今回は、白須理事長と今後の活動について、意見を交わしました。

マラリア・ノーモア・ジャパンは、マラリアの根絶を目指して活動を行っている国際NGOの日本支部です。
「マラリアの無い世界」を目指し、キャンペーンやイベントを通じた啓発活動や政策提言を行うほか、マラリアの犠牲者を無くすために海外でも精力的に活動をしています。

Malaria No More Japan公式サイトはこちらから:

マラリアも日本リザルツが取り組みを行う結核と同じ三大感染症の一つです。是非、更なる連携を図っていきたいと思います。
(おすぎ)
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2023年03月20日

薬剤耐性菌への国際臨床試験開始:現場の生の声を大切に

今月から、薬剤耐性菌による感染症にかかった赤ちゃんへの国際臨床試験が始まりました。

本日の朝日新聞1〜3面参照:

試験は、WHOなどが設立した耐性菌対策に取り組む国際非営利組織「The Global Antibiotic Research & Development Partnership(GARDP)」が中心となり、日本からは塩野義製薬と国立国際医療研究センター(NCGM)が参加しています。南アフリカとケニアで開始し、適切な投与方法が見極められた後、約10か国に拡大される予定です。

薬剤耐性菌とは、簡単に言うと薬が効かない菌のことです。もともと細菌が原因で引き起こされる病気に有効な抗菌薬が開発され、それにより、様々な感染症の治療が可能となりました。一方、1980年以降、従来の抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」を持つ細菌が世界中で増えてきました。感染症の予防や治療が困難になるケースが増えており、今後も抗菌薬の効かない感染症が増加することが予測されます。
健康な人なら免疫で抑えられることも多いそうですが、抵抗力の弱い子どもやお年寄り、持病がある人などの間では重症化し、多臓器不全などを引き起こす敗血症に至ることがあります。さらに、多くの抗菌薬が効かなくなった「多剤耐性菌」を獲得してしまうと、対応できる薬が限られ治療が困難になります。医療体制が整っていない国ではより対処が難しくなります。
GARDPの推計では、世界で年間約21万人の新生児が耐性菌による感染症で命を落としているとあるのにもかかわらず、赤ちゃんに使えるとされる抗菌薬は、1割程度しかないそうです。
日本でも他人ごとではありません。新型コロナウイルス禍での入国制限により、海外からの入国者は大幅に減り、一時的に国内の耐性菌感染症の発生は減りました。しかし、これから入国制限が緩和されていく過程において、海外由来の毒性の強い耐性菌が流入することが危惧されています。
NCGMの国際感染症センターのセンター長である大曲貴夫先生は、感染症に対して数多くの経験や技術を持つ日本が、薬を必要としている国において、治験に貢献することは意味があるとし、現地での対策がひいては日本の子どもを守ることにつながるというコメントされてます。

大曲先生には、予てよりご指導ご鞭撻をいただいており、先日開催されたGGG+フォーラムのパンデミックセッションの第5部で、お話をしていただきました。

GGG+フォーラムの様子はこちらからご覧いただけます:

フォーラムの中で大曲先生は、ご自身の現場での生の経験をもとに、現在の感染症に対するヘルスシステムや医療・介護の体制には課題があり、今のUHCに向けた議論には限界があると指摘。ご自身が専門とされる感染症分野の視点から、研究開発、治験など、さまざまな解決策を提案してくださいました。

お話の中で印象的だったのは「先進国が、ワクチンや診断薬、治療薬を、全力を挙げて開発しているが、現実には先進国であってもそれが届かない人々が存在しており、ハイレベルな議論と現場の患者さんの実情の間で分断が生まれている」という内容でした。皮肉にも、コロナウイルスの人口100万人当たりの死亡者数はヨーロッパやG7の国々が突出して多いのだそうです。

私個人は、感染症分野について精通している者ではありませんが、日本で研究や開発が進んでも、それに全くアクセスできず取りこぼされていく人々が国内に一定数いるという現状を、政策立案者や決定者、そして資金を動かす者がどれだけ目を向けることができるかが、いかに大切であるかを感じました。これは、医療だけでなく、栄養や衛生など、あらゆる分野に対しても同じことがいえると思います。
あらゆる立場の人々が具体的に思い浮かべながらの対策が進むよう、ハイレベルな会合で一部の人間によって進められる議論と現場の生の声との間に生じるギャップに鋭く目を向けられるようになりたいと強く思いました。
日本リザルツとしても、今後もGGG+フォーラムのように、あらゆるステークホルダーを巻き込んで、現場の声が皆さんに共有される会を続けていきたいです。


(おすぎ)
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速報!岸田総理とインドのモディ首相が会談

岸田総理大臣がインドを訪問中です。

つい先ほど、インドのモディ首相と会談し、5月のG7広島サミットにモディ首相を招待し、首相もその場で出席の意向を示したそうです。この他、ウクライナ情勢や中国の軍拡を踏まえ、法の支配に基づく国際秩序の堅持に連携して対応することを確認したようです。


報道はこちらを参照:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA176NR0X10C23A3000000/


なぜ、この時期に岸田総理自らがインドを訪問したのでしょうか。今月はじめ、G20外相会合が行われ、国会審議のため林芳正外相が欠席したことが報道で取り上げられていました。ただ、理由はそれだけではないようです。


インドは、グローバルサウスと呼ばれる新興国や途上国の代表格とされており、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、ロシアに加え中国の影響力を考慮し、中立的な立場をとる国が多いのが現状です。

今年の外交白書にははじめて「グローバルサウス」に関する文言が入れ込まれるなど、影響力は年々増しています。

その時のブログはこちらを参照:

http://resultsjp.sblo.jp/article/190233491.html


そこで、G7議長国として、中国やロシアを念頭に、法の支配に基づく国際秩序の堅持やグローバルサウスへの関与を強化するために、G20議長国のインドと連携を深めるために訪印したようです。


これはインディアン・エクスプレス紙への寄稿を見るとよくわかります。

寄稿内では「国際社会は今、歴史的転換期にあります。食料危機や肥料価格の高騰を含め、その影響はインド太平洋地域にも及んでいます。食料安全保障、気候・エネルギー、透明で公正な開発金融等の国際社会が直面する様々な課題に効果的に対応していくためには、G7とG20(金融・世界経済に関する首脳会合)との連携が一層重要です。G7、G20がそれぞれどのような役割を果たせば喫緊の課題を乗り越えることができるのか、本年それぞれの議長を務める者同士、モディ首相と腹を割って議論したいと思います」と、今回の訪印の目的をクリアに述べています。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/discourse/20230320contribution.html



岸田総理は渡航前の記者会見で「インドで自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の新プランについて講演をしてきたいと思っています。歴史的な転換期において、FOIPの果たす役割について、私の考えを明らかにしてきたいと思っています」と述べ、この件について新たな行動計画を発表する方針を明らかにしています。


岸田総理の会見(首相官邸):

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0319kaiken.html




時を同じくして、林芳正外相はソロモン諸島やクック諸島などを訪問し、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現に向け、太平洋島嶼国との間でも透明性・包摂性のある協力を幅広く進め、連携を強化することを確認しています。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/sb/page4_005817.html



日本リザルツが予てより注視している開発協力大綱の改定などにも影響がありそうですので、詳しい渡航の様子は首相官邸や外務省のHPが更新され次第、お伝えします。

(ぽ)

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科学の力で食事をおいしくする:「うま味」発見秘話

2023311日付の朝日新聞「はじまりを歩く」に「うま味」を発見した池田菊苗のことが紹介されていました。


「うま味」を発見したのは、東京帝国大学理科大学(現東京大学理学部)の池田菊苗教授です。池田教授は、肉や魚を食べたときに「うまい」と感じる味が、昆布やかつお節のだしの味にも共通していることに気付きました。そして、1907年に昆布から、「うまい」を感じさせるグルタミン酸を抽出し、その味を「うま味」と名付けました。1908年、グルタミン酸にナトリウムを加え、「味の素(グルタミン酸ナトリウム)」を完成させました。現在は、グルタミン酸だけではなく、かつお節に含まれるイノシン酸や、干しシイタケに含まれるグアニル酸も「うま味」であることが分かっています。

2000年には、アメリカの研究者が、舌に「うま味」に反応する受容体があることを発見しました。また、胃の中にも受容体が発見されました。グルタミン酸が入り込むと消化が促進されるため、食欲不振解消への活用も期待されています。科学の力は、理論的においしい食事や健康的な食事を作り出すことに貢献します。日本食は、世界的に繊細な味であることが有名です。「うま味」について、さらに解明が進むと、注目を浴びている昆虫食も含め、様々な代替タンパク質を美味しく調理することにも活かせるかもしれません。

しかし、一番大事なことは、作り手の愛情とも聞きます。食事に限らず、誰かのためという気持ちを忘れないでいたいです。日本リザルツもそうした視点を忘れないで、栄養改善に向けた取り組みを進めていきたいです。


くーぱー


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スリランカ経済危機:政府の汚職対策が急務

本日の日経新聞の経済教室「私見卓見」に、スリランカにおける経済危機に関する寄稿が掲載されています。

スリランカでは、慢性的な貿易赤字と、コロナパンデミックが原因となり、昨年5月にデフォルト(債務不履行)が宣告されました。


報道はこちらを参照:

https://jp.reuters.com/article/sri-lanka-crisis-idJPKCN2N40NE

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68605510Z10C23A2NN1000/


今回の寄稿は、政府の「汚職」に焦点をあてています。著者のスリランカのシンクタンク、ベリテリサーチのニシャン・デメル代表は、官僚の資産申告の透明性を高め、政府の内実の伴わない汚職対策を「社会の意見に耳を傾けず、国民生活を一段と悪化させている」ことを指摘しています。その上で、具体的な対策として、政府自身で汚職防止をすることが難しいのであれば、汚職対策について、機関を独立させることを提案しています。また、他の新興国や途上国でも債務不安の課題は広がっているとして、本年5月に広島で開催されるG7サミットで、衝撃に耐えうる世界経済を作るための議論をしてほしいと要望しています。

日本政府は、スリランカの経済危機を受け、今年の2月に武井俊輔外務副大臣が同国を訪問。また、同月22日には、同国への無償資金協力として50億円相当が保健医療分野の人道支援に供与されることになりました。


訪問の様子はこちらを参照:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sw/lk/page1_001502.html

無償資金協力に関して(在スリランカ日本国大使館サイト):

https://www.lk.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/11_000001_00034.html


実際、昨年8月の国連の推計では、人道支援を必要とする人が570万人にも及んでおり、経済危機が人道危機を招く事態となっています。日本においても、ウクライナ情勢を受け、円高や物価高などが生じ、国民も大きな影響を被っています。その観点からも、スリランカで起きた経済危機は決して対岸の火事ではありません。

今回の無償資金協力では、在スリランカ日本大使がスリランカの財務高官と書簡を交わしたようです。ちなみに、在スリランカ日本国大使館の甲木浩太郎公使は、外務省の地球規模課題総括課長を務められていた頃、日本リザルツが開催に携わった国際連帯税シンポジウムなどをはじめとする国際連帯税関連の会合に度々お越しいただきました。


その時の様子はこちらからご覧いただけます。

サンキューセミナー(国際連帯税):

http://resultsjp.sblo.jp/article/184782186.html

国際連帯税創設を求める議員連盟総会:

http://resultsjp.sblo.jp/article/185101900.html

国際連帯税シンポジウムの様子:

http://resultsjp.sblo.jp/article/186344712.html


白須理事長とも親交が深く、今回のスリランカ経済危機にあたって、日本の顔として、人道支援にご尽力されている姿に非常に感銘を受けております。

そのっち

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2023年03月17日

世界銀行の国際シンポジウム「復興から成長へ 広島の経験に学ぶ〜広島とウクライナ・東欧諸国・中央アジア諸国の対話〜」への参加を通じて

3月15日に世界銀行 東京開発ラーニングセンター(TDLC)と広島市の共催で開かれた国際シンポジウム「復興から成長へ 広島の経験に学ぶ」に日本リザルツの白須理事長をはじめ、スタッフや日本リザルツと親交のある皆さんで参加させていただきました。会合の様子は、地元の中国新聞をはじめとする多くのメディアで取り上げられています。

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冒頭、地元広島選出の岸田総理大臣からビデオメッセージが寄せられました。岸田総理はG7広島サミットに向けて日本が55億ドルの支援を世界銀行を通じて行うことを説明した上で、「私は、力による一方的な現状変更の試みを断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く強い意志と、核のない世界の実現を目指すメッセージを、唯一の戦争被爆国として力強く世界に発信し続けたいと思います。そして、同志国と共に、ウクライナの1日も早い復興に向けた取組を、日本の知見をいかして支援していきたいと思います」と力強く訴えられました。

岸田内閣総理大臣ビデオメッセージ(首相官邸):

また、世界銀行のデイビッド・マルパス総裁もビデオメッセージを寄せられ、ロシアによるウクライナ侵攻等により、世界各地で脆弱性が高まっていることを指摘し、すでに世界銀行によるウクライナ支援は205億ドル(約2.8兆円)に達し、このうち190億ドル(約2.6兆円)は実行済であることが紹介されました。その上で、「平和・繁栄に向けた取り組みを進めるに当たり、ウクライナ自身が復興に向けた準備を始めることは極めて重要です。甚大な被害の中から立ち直った歴史を有する広島こそ、本日の議論を行うのに相応しい場所はないものと考えます」と広島でシンポジウムが開催されることの意義を述べられました。

マルパス総裁のメッセージ:

今回のシンポジウムには、スタッフの園田と杉原も参加しました。以下2人の感想を述べさせていただきます。

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以下、杉原記載:

私がこの会議に参加して最も心を掴まれた瞬間は、「映像と音楽で振り返る広島の復興」というコーナーでした。

このコーナーは、松井一實広島市長をモデレーターとし、原爆投下直後や広島の町並みの映像を背に、広島ウィンドオーケストラの生演奏とともに、広島の過去から現在までを振り返っていくというものでした。
最後に、今回のために結成された「平和を運ぶ合唱団」によるカンタータ「土の歌」の第7楽章である「大地讃頌」の合唱が演奏されました。これを聞いたとき、会場全体の一体感を感じ、国や言語は違えど、音楽を通して平和というものの尊さ、美しさ、人間の心の温かさを感じました。
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これまで私は、平和のために何か行動しなければと思ったとき、対話や議論ばかりを重視し、言葉や論理に拘りすぎていた自分がいました。今回の経験を通して、平和を希求する手段は必ずしも言葉である必要はないと実感しました。言葉でしか語りえない平和もあり、音楽にしか語りえない平和もあるのだと思います。

「大地讃頌」の歌詞の中に、「母なる大地の懐に 我ら人の子の喜びはある」というフレーズがあります。

人智を戦争や核兵器という愚かな手段に利用してしまった人間であろうと等しく土に還るのだから、生命の誕生の源である大地の恵みをうけ、「我ら人の子」は立ち上がることができるし、喜びを分かち合うことができる。

作詞者である広島生まれの詩人、大木惇夫さんは、こうした想いを音楽にのせて謳っていくことにしたのではないかと思います。
平和を希求する心を人が持ち続ける限り、それはどういった形であれ他者の心を打つ形となって現れてくるのだと、今回のシンポジウムと広島の人々の姿を見て感じました。

また、松井広島市長はお話の中で、平和とは、家族や友人、大切な人との時間を当たり前に過ごすことができる「ポジティブ」な状態だとおっしゃっていました。松井市長は初の被ばく2世市長です。広島平和記念式典で読み上げる宣言に、戦後初となる被ばく者の体験談手記を引用するなど、被ばく者の心に寄り添った対応をされてきました。戦争当時、広島で被ばくした方々の恐怖や絶望は計り知れません。彼らにしか語ることのできない原爆、核兵器の恐ろしさがあるだろうし、彼らにしか語れない平和への思いはあると思います。
戦争を経験していない私が簡単に言うことではありませんが、松井市長の言葉や広島の方々の姿から、いかなる状況にあっても、そのポジティブな状態に向かって一人一人が少しでも希望を持ち続けることに平和があるだと思います。また、平和は、国家や機関、団体によってつくられていくものではなく、個人から生まれていくものだと感じています。だからこそ、自分が大切な人と過ごせる時間がいかにかけがえのないポジティブなものであるのか、足元にある平和を噛み締めて今日一日を大切に生きなければならないと、一個人として思います。

現在もなお続くウクライナ戦争の渦中で苦しみ続けている人の絶望も本当に計り知れません。ポジティブな日常が奪われ続けているウクライナの人々の計り知れない苦しみに、一人の人間としてどれだけ寄り添うことができるのか、絶えず思いを馳せて考えていくことの大切さを感じました。

過去の戦争の歴史や現在の状況を見ていて、人間そのものの醜さ、愚かさや、結局は自分に何もできないということに絶望を感じてしまうこともありますが、それでも自分自身は、まっすぐに平和を希求できる一人の人間であり続けたいとただただ思いました。そのために、当たり前ではありますが、もっと沢山勉強して、もっと沢山の人から誠実に謙虚に学んでいき、その上で世界の現状に目を瞠り続けていきたいです。

杉原怜奈

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以下、園田記載:

今回の会合には、ウクライナからアナユルチェンコ地域社会・領土・インフラ開発省副大臣と、ミコライフ市のオレクサンドル・シンケヴィチ市長が参加されており、私はたまたま近くの席に座らせていただいていました。お二方のスピーチに共通していたのは、今の事態を少しでも良い状況にしたいという言葉の一つ一つが明らかに重みを持つものだったことです。

アナユルチェンコ副大臣の基調講演 
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住居や生活インフラなど、約1000億ドルに及ぶ甚大な損害を受けても、復興に向けて「より良い社会構築を目指す」という力強いメッセージからは、副大臣として国民の皆さんを支えているという責任感が伝わってきました。

第3部のパネルディスカッション 左から3番目がミコライフ市オレクサンドル市長
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危機の時だからこそ市民との対話、市民の声に耳を傾けることを続ける大切さ、命を守るためにできることがたくさんあるというメッセージからは逆境に負けない強さを感じました。

彼らと同じ会合に参加してはいるが、私とお二方には、大きな隔たりがあるということにハッとさせられました。例えば、彼らは会合後、戦争下にある自国に帰り、国民の命を守るために働きます。私は会合後に広島で観光を楽しんでいました。ウクライナ侵攻が起きた1年前の2月、戦争が日本で起きてもおかしくないと、自分自身に警鐘を鳴らしていたつもりでしたが、心の奥底では、対岸の火事だと思ってしまっていました。そこに、人の痛みを自分ごととして捉えることの必要性と、その難しさを、強く感じました。

ミコライフ市オレクサンドル市長とお写真を撮影しました
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いつでも連絡してね!と名刺も頂戴しました。

アナユルチェンコ副大臣とも記念撮影させていただきました。 
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スピーチの後、感動のあまりすぐに駆け寄り、写真を撮らせていただきました。

NGOの仕事でも、同じことが当てはまります。困っている人の心を自分事として理解できなければ、その人たちの立場に立った必要な支援はできないということです。日本リザルツのインド進出にあたり、私が人の痛みを自分ごととして感じられるようになるまで、すでに何度も壁にぶつかっています。一方でこれは悩む価値の高いことだとも思います。
今回の世界銀行の会合や広島出張を通じ、平和を願う素晴らしい演奏や、豪華パネリストによるスピーチ、原爆ドームへの訪問など、平和について考える貴重な経験をさせていただきました。

パネリストの集合写真(写真の右端が緒方副財務官)
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財務省からは、緒方健太郎副財務官が参加され、鈴木俊一財務大臣のメッセージを代読していました。

まだまだ浅慮ではありますが、平和をいくら論じるよりも、困っている人の心を1ミリでも多く理解できるように自分を変革させることが今必要だと痛感しました。マハトマ・ガンジーの言葉に、「変革を望むならば、まず自らを変革せよ」とあります。大きな変化を起こすために、まずは自分の心を絶えず変革させることを肝に銘じたいと思います。

原爆ドームの写真
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広島平和記念公園の写真
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このような貴重な機会を与えていただいた白須理事長、世界銀行の米山泰揚駐日特別代表のご厚意に心からの感謝を申し上げます。

園田開

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シンポジウムの詳細はこちらを参照:
国際シンポジウム「復興から成長へ 広島の経験に学ぶ〜広島とウクライナ・東欧諸国・中央アジア諸国の対話〜」の概要


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2023年03月16日

ゆるみを持たせることが生き方のコツ

3月16日(木)付の朝日新聞「折々の言葉」に、80歳を超えてもなお、パリにてファッションデザイナーとして活動しておられる島田順子さんの言葉が紹介されていました。

島田さんの言葉からは、ファッションでも、人生でも、あえて完璧を目指さないことの大切さが感じ取れます。

煮詰まらないよう、どこかにゆるみを持たせるのだとか。


私は完璧主義であるがゆえに、最後まで全てが上手くいかないと仕事が次に進まないことがあります。

こだわりを持って取り組むことは悪い事ではないと思いますが、完璧を一度に求めることなく、70%でもコツコツ続けていくことが生きる上では必要なのだと感じました。


海外の方がティータイムをとても重要視するというのをよく耳にします。

それは、一度に全てを求めず小休止することが、長く前進を続けることには必要だということを意味しているようにも思えます。

そう考えると、どこでも精力的に活動するならば、どこかにゆるみをもたせることも活躍の第一歩かもしれません。


インターンでの活動を通じ、様々な方に指導を仰ぎながらも、完璧に固執しない「良い塩梅」を身に着けたいと感じました!


Watagashi



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SARS過少報告で中国当局を告発:蒋彦永氏が死去

3月15日付朝日新聞に、中国で新型肺炎SARSの感染が広がった際に、当局が感染を隠ぺいしたことを告発した蒋彦永医師が3月11日に死去されたことが分かりました。91歳でした。

蒋医師(Jiang Yanyong)は、もともと北京にある軍総医院に勤務しており、当局側の人でした。2003年4月、中国衛生省が「全国人民代表大会を無事開くため」とSARS患者が出ていながら、その情報を隠ぺいした事実を世界に明るみにしました。その後、中国当局は感染者数が当初の発表の数倍にのぼることを公表。当局が感染対策を強化するきっかけにもなったとして称賛されました。2004年には、アジアのノーベル賞といわれる「マグサイサイ賞」を受賞しました。また、天安門事件についても再評価を求める意見を述べ、当局の監視下に置かれていました。
中国本土で、蒋医師の死は報じられませんでしたが、ソーシャルメディアには追悼のメッセージが寄せられているようです。

3月5日に開催されたGGG+フォーラムにでは、多くの専門家の方や学生から、情報の透明性や自身のリテラシーを高めることの重要性について言及がありました。
国の政策や経験から学ぶことはもちろんですが、真実を見抜く目を養いたいと思います。

くーぱ



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2023年03月15日

開発協力白書の公表と開発協力大綱の改定

314日、「2022年版開発協力白書 日本の国際協力」が公表されました。

資料はこちらからDLできます。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo.html

冒頭でウクライナ情勢を受けた日本の取り組みについて特集し、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、日本が決めた関連支援(総額約16億ドル)を紹介しています。


もう一つ注目したいのが、今回はじめて「グローバルサウス」に関する問題について言及し、アジア、中東、アフリカなどへの支援強化を打ち出したことです。

グローバルサウスは、南半球を中心とした新興・途上国をまとめて指す言葉です。グローバルノース=先進国との対照で使われる表現ですが、地理的に南に位置するとは限りません。一般的にはアジア、アフリカ、中南米諸国を指します。


なぜ、グローバルサウスが注目されるようになったのか。きっかけはロシアによるウクライナ侵攻です。欧米諸国と日本対ロシア・中国との間で意見の対立があり、国連総会の機能不全やG20で共同宣言が出ないなどが世界の分断が進んでいるのは皆さんもご存知かと思います。グローバルサウス諸国は中・ロとの関係を維持するため、中立的な立場を取る国もあり、国連総会でロシア非難決議を棄権した国も多く、関係性の見直しの声が上がったのです。


時事通信の報道はこちらを参照:

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023031400271&g=pol

グローバルサウスについて(時事通信)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023030400326&g=pol


林芳正外務大臣の会見(14日)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_001076.html


これに関連して、現在開発協力大綱の改定に向けた作業が進んでいますが、自民党と公明党がすでに外務大臣に提言を出しています。


公明新聞の報道はこちらを参照:

https://www.komei.or.jp/komeinews/p284509/


特に昨日提出された公明党の提言内には、国際保健部分に「市民社会、NGO による国際保健分野の現場での取組、能力強化、政策提言、啓発普及など、特にソフト面をはじめとする支援を拡大すること」という文言が入り、現場のニーズに即した支援を重んじる表現がありました。また、ODA使途部分にも「自然災害時などの人道支援においては、NGO などに対する使途を限定しない柔軟な資金拠出を可能とすること」という文言が入っています。


一方、7日に出された自民党の提言を見てみましょう。

前文で「わが国自身の外交力と防衛力双方を車の両輪として一層強化すること」とし、安全保障のために外交力強化が必要で、ODAはそのための「戦略的」なツールであることを強調しています。こちらは人間の安全保障という観点が強い印象を受けました。


全文はこちらからお読みいただけます:

https://www.jimin.jp/news/policy/205421.html


日本リザルツは予てより「機動的な予算確保」に関して、積み木ペーパーを作成し、アドボカシーを続けてきました。

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積み木ペーパー(左)

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積み木ペーパー(右)


過去のブログはこちらを参照:

http://resultsjp.sblo.jp/article/190188443.html

http://resultsjp.sblo.jp/article/190175734.html


改定作業は大詰めを迎えていますので、我々も議論の変遷をしっかりウォッチしていきたいと思います。

(ぽ)


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