スピーチですが、元厚生労働大臣としてのご自身の取り組みを踏まえたAMR対策に関する議論の変遷をもとに課題を指摘。その上で具体的な行動指針についてまで言及されています。
冒頭では新型コロナパンデミックの経験を踏まえ「UHCは平時だけでなく、保健緊急事態にも不可欠」とし、「強靭な保健システムの構築は、パンデミックやAMRを予防し、準備し、対応するための前提条件だ」と、UHCとパンデミックの因果関係について述べています。
ここでは昨年改定された日本の「グローバルヘルス戦略」にも触れ、パンデミックPPR(予防、準備、対応)の強化とUHCの達成という2つの目標に賛同しつつも、AMRがまだ十分に認識されていないことへの懸念を示しています。Lancetのデータ、2019年には500万人近くがAMR関連の疾病で死亡すると推定を引用し、UHCとパンデミックだけでなく、UHC、AMR、パンデミックの相互関連性についての共通認識を新たにしようと呼びかけています。
塩崎先生によると、転機は2014年〜15年だったそうです。当時の世界の政治指導者であるイギリスのキャメロン首相、アメリカのオバマ大統領、ドイツのメルケル首相が AMRを初めて重大な懸念事項として認識。塩崎先生も厚生労働大臣として、WHO世界保健総会においてAMRに関するグローバル・アクション・プランが発出に携わり、ワンヘルスアプローチに基づく国家行動計画の策定が各国に求められるようになりました。これを受けて、2016年の伊勢志摩サミットでは、厚生労働大臣として、AMRを三大健康課題の1つに取り上げられたそうです。
ただ、塩崎先生はAMRに関するグローバル・アクション・プランの進捗は限定的だと指摘されています。塩崎先生は5つの戦略(意識、監視、衛生環境の向上、管理運用、研究開発)のそれぞれを説明した上で、現状の課題についても触れられていました。さらに直近の国際会議も踏まえ、近年AMRの範囲が広くなっていることにも言及されています。そして、「AMRは、もはやスロー・パンデミックでも、サイレント・パンデミックでもない。いつ本当のパンデミックになってもおかしくない」と警鐘を鳴らしました。
塩崎先生は政府による適切かつタイムリーな公的介入が必要だとしています。現在約170か国がAMRに関する独自の国家行動計画を持っているが、資金調達のための予算枠がある国は、全体の20%程度に過ぎず、これが世界のAMR対策が遅々として進まない理由だそうです。これはコロナ禍で明るみになった「経済成長VS健康」という点も踏まえ、しっかり議論する必要があると訴えています。
また、塩崎先生は「しっかり準備すればパンデミック時にコストがかからないことはコロナで学んだ」とし、2024年のAMRに関する国連総会ハイレベル会合に向けた具体的な解決策についても触れています。@インドのG20のプロセスにおいてもAMRを議題とすること、AG7とG20が協調して取り組むこと、B強力な世界政治のリーダーシップが必要なので連携が必要、とし、「世界の皆で、AMRのない世界への道が開けるでしょう」と皆さんへの協調を呼びかけています。
一連のスピーチからは塩崎先生のこれまでの経験に基づいた示唆に富むお話が沢山ありました。特に、グローバル・アクション・プランの策定からG7伊勢志摩サミットでAMRが主要議題として扱われたというくだりについては、先生が最前線で奮闘されていた様子がありありと伝わってきて、こちらも胸を打たれました。